パット・マルティーノ(Pat Martino)『Live!』徹底解説|伝説の「Sunny」を生んだ一夜のライブ盤

パット・マルティーノ Live! 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

全3曲、約38分。パット・マルティーノが1973年に発表したライブ盤『Live!』は、収録曲こそ少ないものの、ジャズギター史に残る決定的な瞬間を封じ込めた1枚です。とりわけラストを飾る「Sunny」でのソロは、もっとも多く採譜(トランスクライブ=演奏を聴き取って楽譜に起こすこと)されるジャズギター・ソロのひとつとして、半世紀を経た今も世界中の学習者が繰り返し耳を傾け続けています。途切れなく湧き出す16分音符のライン、強靭なピッキング、ダークで太い音色という「マルティーノ・スタイル」が、ライブの熱気の中でもっとも生々しく記録された録音と言ってよいでしょう。

本記事では、そんな『Live!』の基本情報から制作背景、参加メンバー、全曲解説までをまとめて紹介します。マルティーノというギタリストの波乱に満ちた歩みそのものについては、パット・マルティーノとは?(人物紹介記事)で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1973年
レーベル Muse Records(ミューズ)
録音日 1972年9月7日
録音場所 ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジのクラブ「フォーク・シティ」(ライブ録音)
プロデューサー ドン・シュリッテン(Don Schlitten)

編成は、パット・マルティーノ(ギター)にエレクトリック・ピアノ、エレクトリック・ベース、ドラムスを加えた4人編成のクァルテットです。

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どんなアルバム?

マルティーノは1967年から70年にかけて、Prestige(プレスティッジ)レーベルで『El Hombre』『East!』『Baiyina』といった作品を立て続けに発表し、新世代ジャズギターの旗手として注目を集めました。1972年に活動を本格的に再開すると、同年3月にCobblestoneレーベルへ『The Visit!』を録音。その流れで、同じ1972年に設立されたばかりの新興レーベルMuse(ミューズ)と手を組みます。本作『Live!』はMuseでの実質的な第1弾アルバムであり、以後『Consciousness』『We’ll Be Together Again』『Exit』といった作品へと続く「70年代Muse期」の幕開けを告げる作品となりました。プロデューサーは『The Visit!』も手がけたドン・シュリッテン。Prestige時代の『Strings!』などにも関わった、マルティーノの音楽をよく知る名プロデューサーです。

面白いのは録音場所です。録音は1972年9月7日、グリニッジ・ヴィレッジのクラブ「フォーク・シティ(Gerde’s Folk City)」での一夜のライブから収録されました。この店はボブ・ディランがプロとしての本格的な初舞台を踏んだことで知られるフォーク系クラブで、いわばフォークの殿堂で電化ジャズ・バンドがライブ盤を録るという、なかなか珍しいシチュエーションだったのです。

その「電化編成」も本作の大きな特徴です。ピアノはエレクトリック・ピアノ、ベースもエレクトリック・ベースという布陣は、マイルス・デイヴィス以降のエレクトリック化が進む当時のジャズ・シーンの空気と、現代音楽にも関心を寄せていたマルティーノ自身の探究心を映したものとされます。バンドはマルティーノの地元フィラデルフィアの人脈が中心(本人もフィラデルフィア出身で、本名はパット・アザーラ)。気心の知れたメンバーによる一体感が全編にみなぎっています。

そして特筆すべきは、A面が1曲・B面が2曲という思い切った構成でしょう。全3曲・約38分、いずれも10分を超える長尺演奏をそのまま収めた潔さが、1曲ごとの即興をとことん深く聴かせる、ライブ盤らしいライブ盤を成立させています。

参加メンバー

参加しているのは以下の4人です。派手なスター共演ではなく、気心の知れたメンバーで固めた編成が、この密度の濃い演奏を支えています。

  • パット・マルティーノ(ギター) … 本作の主役。うねり続ける16分音符のラインとダークで太い音色で、ジャズギター史に独自の地位を築いた名手です。
  • ロン・トーマス(エレクトリック・ピアノ) … 現代音楽の作曲家としての顔も持ち、カールハインツ・シュトックハウゼンに師事した経歴を持つ異色の鍵盤奏者。マルティーノに現代音楽の世界を紹介した人物ともいわれています。
  • タイロン・ブラウン(エレクトリック・ベース) … 電化編成の土台を支えるベーシスト。次作『Consciousness』にも続投しました。
  • シャーマン・ファーガソン(ドラムス) … ライブの熱を牽引するドラマー。彼も『Consciousness』に引き続き参加しています。

全曲解説

オリジナルLPに収められた全3曲を、曲順どおりに見ていきましょう。

1. Special Door(作曲:パット・マルティーノ)

LPのA面をまるごと使った17分46秒、マルティーノのオリジナル曲によるオープナーです。疾走するモーダル・チューン(コード進行の細かい変化よりも、旋法=モードを軸に即興する曲)で、ハードバップからフュージョン、アヴァンギャルドの間を自在に行き来する展開はスリリングの一言。音楽サイトAll About Jazzのイアン・パターソンは、この演奏でのバンドを「炎のように燃え上がっている」と形容し、ビバップをファンクやアヴァンギャルドへ引きずり込むような激しさの中でも失われない「音色の温かさ、リズムのパルス、スウィング感、メロディシズム」を称賛しています。1曲目にして、このバンドの実力を存分に思い知らされます。

2. The Great Stream(作曲:パット・マルティーノ)

こちらもマルティーノのオリジナルで、10分半に及ぶミディアム・テンポのモーダル・チューンです。反復するグルーヴの上を、うねるように途切れなく続いていく16分音符のラインは、まさに後年まで続く「マルティーノ節」の見本。曲名(大いなる流れ)のとおり、大河のように流れ続けるソロに身を任せる心地よさを味わえる1曲です。

3. Sunny(作曲:ボビー・ヘブ)

1966年のボビー・ヘブによるポップ・ヒットのカバーで、本作の代名詞というべき10分超の演奏です。マルティーノのソロは数分間にわたって途切れなく続き、ウェス・モンゴメリー版と並んで、ジャズギターによる「Sunny」の代表的名演として語り継がれています。同じ曲を弾いてもアプローチはまったく異なり、ウェス版と聴き比べると、次から次へと単音ラインが湧き出すマルティーノの個性がいっそう際立つはずです。音楽評論家のトム・ムーンは著書『死ぬ前に聴くべき1000枚(1,000 Recordings to Hear Before You Die)』でこの演奏を取り上げ、頂点から頂点へと駆け抜けるその姿を「ジャズ・ミュージシャンというより、地球を救う使命を帯びたスーパーヒーローのようだ」と評しました。ロン・トーマスのエレクトリック・ピアノ・ソロも聴きどころです。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

まず、専門メディアからの評価の高さです。AllMusicでは4.5/5の高評価で、評者のスコット・ヤナウは「アドバンストなハードバップ、フュージョン、アヴァンギャルドの中間にある音楽」「何度も聴く価値がある」と記しています。The Rolling Stone Jazz Record Guideでも4/5。さらにAll About Jazzのイアン・パターソンは、数こそ多くないマルティーノのライブ録音の中でも「最高峰と言ってよい」と位置づけています。

次に、ジャズギター学習者にとっての「教材」としての価値です。「Sunny」のソロはもっとも多く採譜されるジャズギター・ソロのひとつで、教則サイトやYouTubeの解説動画がいまも作られ続けています。ジョン・コルトレーンも多用したことで知られる「1235パターン」(コードの1・2・3・5度の音を組み合わせる定番の音型)をはじめ、マルティーノの語彙を学ぶ定番教材であり、ジョン・スコフィールドパット・メセニー以降の世代のピッキングやライン構築への影響を語るうえでも、必ず名前の挙がる1枚です。

そしてもうひとつ、この盤には特別な物語があります。マルティーノは1980年、脳動静脈奇形(脳内の血管の異常。「脳動脈瘤」として紹介されることもあります)の手術によって記憶を失い、のちに奇跡的な復帰を果たしました。本作はその8年前、病に倒れる前の第一次黄金期の頂点をとらえたライブ録音であり、復帰後の再評価の文脈でも繰り返し言及されてきました。全盛期の勢いがそのまま封じ込められた一夜の記録として、聴くたびに新しい発見がある名盤です。

こんな人におすすめ

  • ジャズギターを練習中の人 … 「Sunny」のソロは採譜譜面や解説動画が豊富で、マルティーノのフレーズを学ぶ定番教材。コピーの題材に最適です。
  • ウェス・モンゴメリーが好きな人 … 同じ「Sunny」の聴き比べを通して、ジャズギターの語り口の違いを楽しめます。
  • 長尺の即興をじっくり聴きたい人 … 全3曲・約38分。1曲ごとにソロを深く堪能できる構成です。
  • 70年代の電化ジャズが好きな人 … エレピ+エレベのクァルテットによる、この時代ならではのサウンドが味わえます。

まとめ

『Live!』は、パット・マルティーノというギタリストの本質――湧き出して止まらない16分音符のライン、強靭なピッキング、ダークで太い音色――がもっとも生々しく記録されたアルバムです。全3曲という潔い構成のおかげで「どこを聴けばいいか」が明快なので、実はマルティーノ入門盤としてもおすすめできます。

まずはラストの「Sunny」から聴いてみてください。数分間ソロを追いかけるだけで、この演奏が半世紀にわたって語り継がれ、いまも採譜され続けている理由がきっと伝わるはずです。そして気に入ったら、ぜひ「Special Door」から通しで。約38分間、1972年9月のフォーク・シティの熱気をたっぷり浴びられます。

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