パット・メセニーとは?ジャズギターの地平を広げ続ける「音の旅人」

パット・メセニー|ジャズギター ミュージシャン紹介

ジャズギターには、一音で「この人だ」と分かる音を持つ名手がいます。ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェスの親指のトーンがそうであるように、パット・メセニーのギターもまさにそれ。温かく、甘く、どこまでも伸びやかな”メセニー・トーン”に、風景が目に浮かぶような叙情的なメロディ。しかも彼は、ジャズからフュージョン、ブラジル音楽、フリー、現代音楽までを軽々と越境する冒険家。そんなメセニーの歩みと魅力を紹介します。

基本プロフィール

項目 内容
本名 パトリック・ブルース・メセニー(Patrick Bruce Metheny)
生年 1954年8月12日(存命)
出身 アメリカ・ミズーリ州リーズサミット
楽器 エレクトリック・ギター(ホロウボディ)、ギターシンセ、12弦ギター、ナイロン弦ギター(バリトン含む)、42弦ピカソ・ギターほか
主な活動期 1974年(ゲイリー・バートンのバンド参加)〜現在

経歴

バークリーの若き講師からバートンのバンドへ

10代でカンザスシティ近郊のジャズ・シーンで頭角を現し、1970年代前半にはヴィブラフォン奏者ゲイリー・バートンのもと、ごく若くしてバークリー音楽大学で教えるようになります。1974年にバートンのバンドへ参加し、一気に注目を集めました。

1976年、ECMデビュー『Bright Size Life』

デビュー作『Bright Size Life』は1975年12月録音、1976年にECMからリリース。プロデューサーはマンフレート・アイヒャー、共演はエレクトリック・ベースのジャコ・パストリアスとドラムスのボブ・モーゼスで、ジャコの最初期の録音のひとつとしても重要です。

グループ結成と盟友ライル・メイズ

1977年、パット・メセニー・グループを結成。中心的共作者はピアニストのライル・メイズです。1978年発売のセルフタイトル作『Pat Metheny Group』は、メセニー、メイズ、マーク・イーガン、ダニー・ゴットリーブの4人編成。以後、楽曲の大半を二人が共作・共編曲し、その関係はメセニーの音楽の根幹となりました。グループは2000年代半ばまで活動し、最終作『The Way Up』は2005年に発表されています。なお盟友メイズは2020年に66歳で逝去。生前から没後にかけて、パット・メセニー・グループの一員として十数回のグラミー受賞に関わりました。

1980年代——ECMからGeffenへ

ECM期には『American Garage』(1979年)、『Offramp』(1982年)などを発表。1985年にデヴィッド・ボウイと「This Is Not America」を共作し、1986年にはフリー・ジャズの巨匠オーネット・コールマンと『Song X』を発表。Geffen移籍後の『Still Life (Talking)』(1987年)、『Letter from Home』(1989年)はいずれもグラミーを受賞しました。

1990年代以降——尽きない探求

『Question and Answer』(1990年)、チャーリー・ヘイデンとのデュオ『Beyond the Missouri Sky (Short Stories)』(1997年)、敬愛するジム・ホールとのデュオ作(1999年)と多彩に展開。2000年代以降はNonesuchに移り、一続きの組曲的大作『The Way Up』(2005年、グラミー受賞)、自動演奏の機械楽器群による「一人のオーケストラ」『Orchestrion』(2010年)を実現。近年も『Dream Box』(2023年)、バリトン・ギターによるソロ『MoonDial』(2024年)と新作を発表し続けています。

音楽的特徴

魅力を一言でいえば「歌心」。明快で覚えやすく、風景が浮かぶような旋律に、甘くまろやかで持続感のあるクリーン・トーンが重なります。ディレイ(音を反復させる空間系エフェクト)を効かせた広がりのある響きこそ”メセニー・トーン”です。

同時に彼は実験家でもあります。1980年登場のローランドのギターシンセ GR-300/G-303 をいち早く導入し、管楽器のようなサウンドを開拓。バートン期から12弦エレキを使い、ジャズにおける12弦活用の先駆者の一人にもなりました。象徴的なのが、ルシアー(弦楽器製作家)リンダ・マンザー製作の「ピカソ・ギター」。4本のネックと2つのサウンドホールを持つ42弦のハイブリッド・アコースティック楽器で、「できるだけ多くの弦を」という依頼から生まれ、完成に約2年を要したとされます。『Imaginary Day』(1997年)などで聴けます。どのジャンルへ行っても「メセニーの音」であり続けるのが凄いところです。

おすすめアルバム

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『Bright Size Life』(1976年)

まず聴くべきはこのデビュー作。1975年録音・1976年ECM発売のトリオ作品で、共演は若き日のジャコ・パストリアスとボブ・モーゼス。録音時22歳前後とは思えない伸びやかなトーンと歌うようなフレージング——”その後のすべて”がすでにここにあります。初心者にも自信を持っておすすめできる、新時代の幕開けを告げた名盤です。

次に進むなら、グループの音世界が花開く『Pat Metheny Group』(1978年)、「Are You Going with Me?」を含む『Offramp』(1982年)、『Still Life (Talking)』(1987年)が定番コース。ストレートなジャズ好きには『Question and Answer』(1990年)、静かな夜には『MoonDial』(2024年)も染みます。

使用機材

長年メインとして知られたのがホロウボディのギブソン ES-175。メセニー・トーンの土台であり、初期から1990年代半ばまで愛用しました。日本のファンに嬉しいのがアイバニーズ(Ibanez)との縁で、1978年の初来日をきっかけに関係を築き、1996年に初のシグネチャー・モデル「PM100」が登場。近年はPM3Cなども展開されています。ほかにローランドのギターシンセ、42弦ピカソ・ギター、各種ナイロン弦ギターなど多彩で、『MoonDial』はマンザー製の特注ナイロン弦バリトンで録音。アンプやエフェクトの詳細は時期により大きく変わるため断定は避けますが、「クリーンで甘いトーンに空間系ディレイ」という方向性は一貫しています。

影響・評価

評価を物語るのが通算20回のグラミー受賞。10の異なる部門で受賞した唯一の人物です。ゴールド認定作も3枚と、ジャズとしては異例のクロスオーバー的成功を収め、米国のNational Endowment for the Arts からジャズ・マスターにも選出されています。

本人はジム・ホールを「モダン・ギター奏法の父」と呼んで深く敬愛し、1999年にデュオ作を実現。ウェス・モンゴメリー(特に『Smokin’ at the Half Note』)からの影響も公言し、ビートルズ、マイルス・デイヴィス、オーネット・コールマンも自認する影響源です。そして彼自身も、トーンからフレージング、作曲の発想まで、現代ジャズギターの「標準的語彙」の一つを形づくった存在となりました。

まとめ

ジャコとのデビュー作からライル・メイズと築いたグループ、オーケストリオン、近年のソロ作まで——メセニーのキャリアはジャズギターの可能性を押し広げてきた旅そのもの。しかも旅は現在進行形で、71歳の今も新作とツアーを続けています。まずは『Bright Size Life』の伸びやかな音に浸ってみてください。きっと次の一枚へ手が伸びるはずです。

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