現代ジャズギターの最高峰のひとりと目される、ノルウェー出身のギタリスト、ラーゲ・ルンド。その代表作として真っ先に名前が挙がるのが、2019年発表の『Terrible Animals(テリブル・アニマルズ)』です。全10曲すべてがルンドのオリジナルで、支えるのはサリヴァン・フォートナー、ラリー・グレナディア、タイショーン・ソーリーという世代を横断した超強力リズム・セクション。浮遊するハーモニーと、音色に溶け込むエレクトロニクスが全編を貫く1枚です。
ラーゲ・ルンドとは?(人物紹介記事)を読んで興味を持った方に、まず手に取ってほしい代表作。この記事では、録音の背景から全曲の聴きどころまで掘り下げていきます。
アルバム基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| アーティスト | ラーゲ・ルンド(Lage Lund) |
| 発売年 | 2019年(CDは2月15日発売、2023年7月に2枚組LPでリイシュー) |
| レーベル | Criss Cross Jazz(クリス・クロス/オランダ) |
| 録音 | 2018年4月26日、ニューヨーク |
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どんなアルバム?
『Terrible Animals』は、ルンドがオランダの名門レーベル、クリス・クロス(Criss Cross Jazz)から発表した5作目のリーダー作です。レーベル自身が「最も作曲的に野心的で、大胆に演奏された作品」と紹介する1枚で、全10曲がルンドのオリジナル。総演奏時間は約68分に及びます。
注目したいのは、この録音のために新たに組まれたリズム・セクションです。ピアノは、ルンドと同じくセロニアス・モンク・コンペティション(ピアノ部門)を制したサリヴァン・フォートナー。ベースは、ブラッド・メルドー・トリオで知られるラリー・グレナディア。ドラムは、のちにピューリッツァー賞候補やマッカーサー賞で知られることになる作曲家でもあるタイショーン・ソーリー。世代もバックグラウンドも異なる名手たちが、ルンドの書いた曲のために集まりました。
録音は2018年4月26日、ニューヨークにて。プロデューサーはレーベル創設者のジェリー・ティーケンス、録音・ミックス・マスタリングはエンジニアのマイケル・マルチャーノが手がけました。CDは2019年2月15日にリリースされ(カタログ番号CRISS 1402 CD)、2023年7月には2枚組LPとしてリイシューされています。
トリオ編成だった前作『Idlewild』(2015年)と比べると、サウンドは「より洗練された」と評されます。英UK Vibe誌は5点満点中4点を付け、「ソロはクールで流麗、魅惑的。現代最高峰のギタリストの一角」と絶賛。JazzTimesなどの主要誌でもレビューされ、現代ジャズギターの必聴盤として定着している作品です。
参加メンバー
- ラーゲ・ルンド(ギター、エフェクト)
- サリヴァン・フォートナー(ピアノ)
- ラリー・グレナディア(ベース)
- タイショーン・ソーリー(ドラムス)
4人のうち2人がモンク・コンペティションの優勝者(ルンドがギター部門、フォートナーがピアノ部門)という顔ぶれです。ギターとピアノが同居するカルテットは音がぶつかりやすい編成ですが、空間を活かすルンドのスタイルもあって、風通しの良いアンサンブルが楽しめます。
全曲解説
全10曲、すべてラーゲ・ルンドのオリジナルです。1曲ずつ聴きどころを紹介します。
1. Hard Eights
アルバムの幕開けを飾るオープナー。サイコロ賭博の用語を思わせるタイトルどおり、一筋縄ではいかない仕掛けを感じさせる曲です。冒頭から、このカルテットの反応の速さと、ルンド特有の浮遊感のあるハーモニーが顔をのぞかせます。まずはギターとフォートナーのピアノの絡みに耳を傾けてみてください。
2. Aquanaut
「潜水士」を意味するタイトルが、水中を漂うようなルンドのハーモニー感覚と響き合う一曲。エフェクトを溶け込ませたギターの音色と、グレナディアの深いベースが作る空間をじっくり味わいたいところです。
3. Suppressions
「抑圧」を意味するタイトルは、音数と音量を抑えて間を活かす、ルンドの「抑制の美学」を象徴しているようにも聞こえます。派手さではなく、囁くような音のやり取りの中に生まれる緊張感に注目してみてください。
4. Haitian Ballad
タイトルに「バラード」を冠したナンバー。ルンドのバラード表現は、甘さよりも静けさと陰影が持ち味です。温かくクリーンなトーンで紡がれるメロディを軸に、カルテットの繊細なサポートとあわせて味わいたい一曲です。
5. Ray Ray
誰かの愛称のような、親しみを感じさせるタイトルのナンバー。肩の力の抜けたタイトルを入り口に、4人の会話のようなインタープレイ(相互反応)へ耳を澄ませたい一曲です。
6. Octoberry
「October(10月)」と「berry(ベリー)」を掛け合わせたような造語タイトル。曲想を限定しない抽象的なタイトルの付け方に、作曲家ルンドのセンスが表れています。聴き手それぞれのイメージをふくらませて楽しみたいところです。
7. Brasilia
ブラジルの首都の名を冠したナンバーです。タイトルから想像をふくらませつつ、それがルンド流のフィルターを通るとどんな響きになるのか、タイトルとサウンドの距離感を確かめながら聴くのも一興です。
8. Take It Eas
「Take It Easy」の誤植ではありません。最後の一文字が欠けた「Take It Eas」が、レーベル公式サイトとBandcampで一致する正式表記です。この人を食ったようなタイトル感覚に、ルンドのさりげないユーモアがうかがえます。
9. Terrible Animals
アルバム後半に置かれた表題曲。「恐ろしい動物たち」という不穏なタイトルを、静かで思索的な音楽を作るルンドが表題に選んだところが面白い一曲です。アルバム全体の空気を象徴する存在として、じっくり向き合ってみてください。
10. We Are There Yet
アルバムを締めくくるクローザー。英語の定番フレーズ「Are we there yet?(まだ着かないの?)」の語順を入れ替えたようなタイトルで、「私たちはもう着いている」とも読める言葉遊びが印象的です。約68分の旅の終着点として置かれた一曲です。
聴きどころ
まず耳を奪われるのはギターの音色です。温かくクリーンなトーンにエフェクトがさりげなく溶け込み、どこまでが生音でどこからがエレクトロニクスなのか、境目を感じさせません。UK Vibe誌が「エフェクトの使い方は常にクールでシームレス」と評したとおり、飛び道具ではなく音色の一部として機能するエフェクトは、本作の大きな聴きどころです。
もうひとつは作曲の面白さ。スタンダード曲に頼らず、全曲オリジナルで約68分を聴かせる構成は、レーベルが「最も作曲的に野心的」と紹介するだけのことはあります。浮遊感のあるハーモニーの上でフォートナー、グレナディア、ソーリーがどう反応していくのか。コンポジションとインプロヴィゼーションの境目を探りながら聴くのが、本作の贅沢な楽しみ方です。
こんな人におすすめ
- カート・ローゼンウィンケル以降の現代ジャズギターを追いかけている人…その系譜を語るうえで欠かせない1枚です。
- ジュリアン・ラージやギラッド・ヘクセルマンが好きな人…同時代に並び称される名手の代表作として、聴き比べが楽しめます。
- スタンダードよりオリジナル曲主体の現代ジャズを聴きたい人…全10曲がルンドの書き下ろしです。
- 静かに聴き込める1枚を探している人…音数を抑えた思索的な演奏は、夜のリスニングによく合います。
まとめ
『Terrible Animals』は、モンク・コンペティション優勝者2人を含む世代横断のカルテットで、ラーゲ・ルンドが作曲家・ギタリストとしての評価を決定づけた代表作です。派手なクライマックスで畳みかけるタイプのアルバムではありませんが、聴くたびに新しい響きが見つかる奥行きがあります。まずは冒頭の「Hard Eights」から、霧のかかったようなハーモニーの世界に足を踏み入れてみてください。人物像やほかのアルバムについてはラーゲ・ルンドとは?(人物紹介記事)もあわせてどうぞ。
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