バーニー・ケッセル(Barney Kessel)『The Poll Winners』徹底解説|人気投票を制した3人が生んだギタートリオの原点

バーニー・ケッセル The Poll Winners 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

ギター、ベース、ドラムス。ピアノもホーンも入らない3人だけの編成で、ここまで豊かな音楽が生まれるのか——『The Poll Winners』は、そんな驚きを今も新鮮に味わわせてくれる1枚です。Down Beat・Metronome・Playboyという3誌の人気投票(ポール)をそれぞれの楽器部門で制した3人、バーニー・ケッセル、レイ・ブラウン、シェリー・マンが1957年に集結。「投票の勝者たち=The Poll Winners」の名のとおり、当時の最高峰が肩の力を抜いて楽しげに演奏する、ジャズギター史に残る名盤です。

リーダーのバーニー・ケッセルは、オスカー・ピーターソン・トリオへの在籍を経て、ロサンゼルスのスタジオシーンで引っ張りだこだった名手。その経歴や奏法の魅力については バーニー・ケッセルとは?(人物紹介記事) で詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。本記事では、彼の代表作である本作を、制作背景から全曲解説までじっくり掘り下げていきます。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1957年
レーベル Contemporary Records(コンテンポラリー・レコード)
録音日 1957年3月18日・19日
録音場所 コンテンポラリー・レコード自社スタジオ(米ロサンゼルス)
プロデューサー レスター・ケーニッヒ(Lester Koenig)

編成は、ギター+ベース+ドラムスのみ。ピアノを含まない「ピアノレス」のギタートリオです。

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どんなアルバム?

きっかけは1956年の人気投票でした。この年、ジャズ専門誌のDown BeatとMetronome、そして第1回オールスター・ジャズ・ポールを開催したPlayboyの3誌で、ケッセルがギター部門、レイ・ブラウンがベース部門、シェリー・マンがドラム部門をそれぞれ制覇。3部門の勝者をそのまま集めて「The Poll Winners」と名付けるという、シンプルながら胸躍る企画が生まれたのです。

仕掛け人は、コンテンポラリー・レコードの創業者でありプロデューサーのレスター・ケーニッヒ。西海岸ジャズの拠点として知られる同レーベルらしいスタジオ・セッション企画で、録音は1957年3月18日・19日の2日間、ロサンゼルスにあるレーベル社屋内のスタジオで行われました。エンジニアは名手ロイ・デュナンです。

当時の3人はいずれもキャリアの絶頂期。第一線で多忙を極める顔ぶれがこのセッションのために集まった、いわば企画から生まれたドリームチームでした。

ところが、その即席トリオが驚くほど有機的に噛み合いました。マンは後年「こっちが何かやれば、バーニーとレイがすぐ拾って何かに発展させてくれる」と証言しています。その手応えは1作では終わらず、『The Poll Winners Ride Again!』(1958年)、『Poll Winners Three!』(1959年録音・1960年発売)、『Exploring the Scene!』(1960年)、そして1975年の再結成セッションによる『Straight Ahead』(1976年発売)と、計5作のシリーズへと発展していきました。本作はその記念すべき第1作です。

参加メンバー

メンバーはわずか3人。しかし全員が人気投票を制した当代随一のプレイヤーです。

  • バーニー・ケッセル(ギター) … 本作のリーダー。オスカー・ピーターソン・トリオ在籍歴を持ち、当時LAのスタジオシーンで最多録音級の活躍をしていた売れっ子ギタリスト。ブルージーで温かいフレージングが持ち味です。
  • レイ・ブラウン(ベース) … 当時オスカー・ピーターソン・トリオの現役ベーシスト。太く歌うウォーキング・ベース(4分音符で歩くように刻む伴奏)でモダンジャズのベースの規範とされる巨人です。
  • シェリー・マン(ドラムス) … コンテンポラリーの看板ドラマーとして「シェリー・マン&ヒズ・メン」を率いた西海岸ジャズの中心人物。繊細なブラシ(ワイヤーの束で叩く奏法)とシンバルワークの名手です。

全曲解説

オリジナルLPに収録された全9曲を、曲順に沿って1曲ずつ見ていきましょう。

1. Jordu(作曲:デューク・ジョーダン)

クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットの演奏で有名になったバップ(1940年代に生まれたモダンジャズのスタイル)の名曲。冒頭からトリオの機動力を存分に提示するオープナーで、ピアノレスとは思えない音の厚みとスピード感に一気に引き込まれます。

2. Satin Doll(作曲:デューク・エリントン、ビリー・ストレイホーン)

エリントン楽団の代名詞的ナンバー(詞はジョニー・マーサー)を、じっくりと温かく料理した演奏。単音弾きだけでなく和音でメロディを紡ぐ、ケッセルのコードワークの聴かせどころです。

3. It Could Happen to You(作曲:ジミー・ヴァン・ヒューゼン、ジョニー・バーク)

ヴァン・ヒューゼンによる人気スタンダード。ケッセルの歌心あふれるメロディ解釈が光る、メロディの歌わせ方の良いお手本のような演奏です。

4. Mean to Me(作曲:フレッド・E・アーラート、ロイ・ターク)

アルバム中でも長尺の演奏で、3人のソロが順に回っていくジャム・セッション的な展開が楽しい1曲。終盤にはそれぞれの見せ場が用意され、「全員が主役」というトリオのコンセプトを最も分かりやすく体感できます。

5. Don’t Worry ‘Bout Me(作曲:ルーブ・ブルーム、テッド・ケーラー)

B面はバラード寄りのこの曲からスタート。ケッセルのシングルライン(単音のソロ)とコードメロディの対比が味わえ、静かな曲でこそトリオの表現力が際立ちます。

6. On Green Dolphin Street(作曲:ブロニスワフ・ケイパー、ネッド・ワシントン)

本作の白眉のひとつ。この曲といえばマイルス・デイヴィスの1958年の録音が有名ですが、本作の録音は1957年、つまりマイルスより早いのです。同曲がジャズ・スタンダードとして定着していく初期の重要録音のひとつとされており、ラテン風のヴァンプ(短いフレーズの反復)と4ビートの対比を活かしたアレンジも秀逸。現在もギター教材やコピー譜の定番トラックとして人気の高い演奏です。

7. You Go to My Head(作曲:J・フレッド・クーツ、ヘイヴン・ギレスピー)

しっとりとしたバラード演奏。音数をぐっと抑え、3人が空間を活かして歌い上げる、ピアノレス編成ならではの美しさが詰まった1曲です。

8. Minor Mood(作曲:バーニー・ケッセル)

アルバム中唯一のオリジナル曲。マイナー調のブルージーな小品で、プレイヤーとしてだけでなく、作編曲家としてのケッセルの顔も垣間見えます。

9. Nagasaki(作曲:ハリー・ウォーレン、モート・ディクソン)

1928年のティン・パン・アレー産ノヴェルティ・ソングをアップテンポで快走するクローザー。深刻ぶらないこのトリオの気風を最後まで貫く、遊び心あふれる幕切れです。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

最大の聴きどころは、ピアノレスという編成が生む「風通しの良さ」と、それを埋め尽くすインタープレイ(演奏中の相互反応)です。ケッセルのギターがリード楽器を務め、ブラウンの太いウォーキング・ベースとマンの繊細なブラシ/シンバルワークが空間を彩る。AllMusicは4.5/5の高評価で「選曲、3人のインタープレイ、リードワークが見事に溶け合った、スモールグループ編成のギター・アルバムの古典」と評し、発表当時のDown Beat誌も4.5/5で「リラックスした愉悦の空気を犠牲にしないヴィルトゥオジティ」と絶賛しました。

歴史的な意義も見逃せません。本作は、ギターが完全にフロントに立つギター+ベース+ドラムスのトリオ編成を代表する初期の名盤とされ、後年のジム・ホールジョー・パス、さらには現代のギタートリオにつながる先駆的存在と位置づけられています。この編成の「原型」を聴けるという意味でも外せない1枚です。

そして音質。ロイ・デュナンによるコンテンポラリー録音は同時代屈指の優秀録音として知られ、2022年にはオリジナルテープからのオールアナログ・マスタリングによる180g重量盤LP(Craft Recordings)も再発されました。今なおリイシューが続くこと自体が、本作の価値の証明でしょう。

こんな人におすすめ

  • ジャズギターを聴き始めたばかりの初心者 … スタンダード中心の親しみやすい選曲と明快なメロディで、ジャズギターの魅力の入り口として最適です。
  • ギタートリオという編成が好きな人 … ジム・ホールやジョー・パス、現代のギタートリオのルーツにあたる演奏。原点を知ることで他作品の聴こえ方も変わります。
  • スタンダードの演奏を学びたい中〜上級ギタリスト … 特に「On Green Dolphin Street」は教材・コピー譜の定番。コードワークとシングルラインの使い分けはお手本の宝庫です。
  • 録音の良いジャズを求めるオーディオ好き … ロイ・デュナンによる優秀録音で、トリオの3つの楽器の質感が生々しく味わえます。

まとめ

『The Poll Winners』は、人気投票を制した3人の名手が、肩書きの重さとは裏腹に、実にリラックスして音楽の会話を楽しんだアルバムです。ピアノレスのギタートリオという編成を、物足りなさではなく豊かさとして響かせたこと。それこそがこのアルバムの魔法であり、後年のギタートリオの系譜へとつながる功績でもあります。

まずは「Jordu」の疾走感で3人の呼吸を、「On Green Dolphin Street」でマイルスより早かった名演を、そして「You Go to My Head」で音数を抑えた美しさを味わってみてください。1957年の録音とは思えない鮮度で、ギター・ベース・ドラムスの対話が耳に飛び込んでくるはずです。ジャズギターが好きなら、いつかは必ず通る道。それなら早めに通っておいて損はない名盤です。

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