ケニー・バレル(Kenny Burrell)『Midnight Blue』徹底解説|深夜の空気をまとうブルースとジャズの交差点

ケニー・バレル Midnight Blue 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

「ジャズギターの入門盤を1枚だけ挙げるなら?」という問いに、『Midnight Blue』(ミッドナイト・ブルー)の名前を挙げるファンは少なくありません。1963年にブルーノートから発売された本作は、ケニー・バレルの丸く温かいギタートーンと、ブルースの深い味わいが詰まった1枚。難しい理屈は抜きにして、夜に再生ボタンを押せば、部屋にしっとりとした”真夜中の空気”が広がります。

この記事では、そんな『Midnight Blue』の基本情報から制作背景、参加メンバー、全曲解説までをじっくり紹介します。ケニー・バレルというギタリストの歩みについては、ケニー・バレルとは?(人物紹介記事)で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1963年5月上旬
レーベル Blue Note Records(ブルーノート・レコード)
録音日 1963年1月8日
録音場所 ヴァン・ゲルダー・スタジオ(米ニュージャージー州イングルウッド・クリフス)
プロデューサー アルフレッド・ライオン

編成は、ギター、テナー・サックス、ベース、ドラムス、コンガによるピアノレス(ピアノを含まない)のクインテット(5人編成)です。

※以下に楽天市場のアフィリエイトリンク(PR)を含みます。

どんなアルバム?

『Midnight Blue』は、1963年1月8日、ヴァン・ゲルダー・スタジオでのたった1日のセッションで録音されました。プロデューサーはブルーノート創設者のアルフレッド・ライオン、録音を手がけたのは名エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー。数え切れないほどの名盤を生んできた、ブルーノート黄金の布陣です。

バレルは1950年代からブルーノートの常連でした。デトロイトの大学在学中だった1951年にディジー・ガレスピーのレコーディングに参加し、オスカー・ピーターソンのツアーにも同行。1956年、24歳で初リーダー作をブルーノートに吹き込み、本作までに数多くのリーダー作を発表してきた、当時すでに評価を確立していた実力派です。

本作のコンセプトは「ジャズとブルースの橋渡し」。バレル自身、「私は昔からブルースへの愛情を持ち続けてきた。デトロイトでの駆け出し時代、ブルースを大いに重視するグループで演奏していた」という趣旨の言葉を残しています。その想いを形にするため、あえてピアノを外し、代わりにレイ・バレットのコンガ(キューバ由来の、手で叩く太鼓)を加えるという編成を選びました。

このピアノレス編成が生んだのが、音数が少なく隙間の多い、深夜の静けさを思わせるサウンドです。リード・マイルスのデザインとフランシス・ウルフの写真によるジャケットも、ブルーノートを代表する名ジャケットとして今なお愛され続けています。

参加メンバー

本作の主役はもちろんバレルのギターですが、脇を固める顔ぶれも粒ぞろいです。曲によって編成が変わる点にも注目してください。

  • ケニー・バレル(ギター) … 本作のリーダー。デトロイト出身。ブルースのフィーリングと洗練されたジャズの語彙を併せ持つ、ジャズギター界の巨匠です。
  • スタンリー・タレンタイン(テナー・サックス) … 太く豊かなトーンが持ち味のソウルフルなテナー奏者。「Soul Lament」「Midnight Blue」「Gee, Baby, Ain’t I Good to You」の3曲には参加していません。
  • メジャー・ホリー・ジュニア(ベース) … 「Mule」の共作者でもあるベーシスト。「Soul Lament」を除く全曲で骨太のラインを支えます。
  • ビル・イングリッシュ(ドラムス) … 「Soul Lament」を除く全曲に参加。控えめながら的確なドラミングでセッションを引き締めます。
  • レイ・バレット(コンガ) … 本作のサウンドの鍵を握るコンガ奏者。「Soul Lament」「Gee, Baby, Ain’t I Good to You」以外の曲に参加しています。

全曲解説

それでは、オリジナルLP収録の全7曲を曲順に紹介します。

1. Chitlins Con Carne(作曲:Kenny Burrell)

アルバムの代表曲として知られるマイナー・ブルース(短調のブルース)です。コンガのパーカッシブなグルーヴの上で、ギターとテナーがブルージーなリフ(短いフレーズの繰り返し)を交わします。深夜のバーに迷い込んだかのような空気感は唯一無二。後年、ブルースロックの雄スティーヴィー・レイ・ヴォーンがカバーしたことでも有名です。

2. Mule(作曲:Kenny Burrell, Major Holley Jr.)

ベーシストのメジャー・ホリーとの共作です。極めてスローなテンポで進み、ストップタイム(伴奏が一斉に音を止めて隙間を作る手法)のコーラスが、バレルの温かなギタートーンをこれ以上ないほど際立たせます。

3. Soul Lament(作曲:Kenny Burrell)

バレルのギター1本による、約2分半の無伴奏ソロ演奏です。ベンド(弦を押し上げて音程を変える奏法)や音色の陰影を駆使した美しくも沈鬱な小品で、アルバムの静かなハイライトと言えるでしょう。

4. Midnight Blue(作曲:Kenny Burrell)

タイトル曲は、テナー抜きのカルテット(ギター、ベース、ドラムス、コンガ)による演奏です。ラテン風味のリズムに乗ったミディアム・ナンバーで、コンガとギターの相性の良さが存分に光ります。

5. Wavy Gravy(作曲:Kenny Burrell)

B面の幕開けを飾る、ゆったりとしたブルースです。ここではタレンタインの豊かで包み込むようなテナーのトーンをじっくり堪能できます。

6. Gee, Baby, Ain’t I Good to You(作曲:Andy Razaf, Don Redman)

アルバム中唯一のスタンダード曲です。コンガとテナーを外したギター・トリオ編成によるバラード解釈で、バレルの歌心がじんわりと染みわたります。

7. Saturday Night Blues(作曲:Kenny Burrell)

ラストを締めるのはミディアム・スウィングのブルース。タレンタインのソロの背後でバレルが聴かせる伴奏——ロングトーンとシンコペート(拍をずらすリズム処理)したコードワーク——は、ジャズギターの伴奏の生きた教科書です。

なお、CD再発盤には、同じ1963年1月8日のセッションで録音されながらオリジナルLPには収録されなかった「Kenny’s Sound」「K Twist」の2曲がボーナストラックとして追加されています。あくまでLP本編とは別枠のおまけですが、セッションの空気をさらに味わえる嬉しい追加です。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

本作最大の聴きどころは、やはりピアノレス+コンガという編成が生む「音の隙間」です。コードを厚く埋める楽器がいないぶん、バレルのギターの一音一音が夜気に溶けるように響き、コンガの乾いた音色がそこに独特の体温を加えます。さらに、完全ソロの「Soul Lament」、トリオの「Gee, Baby, Ain’t I Good to You」、テナー抜きカルテットのタイトル曲と、曲ごとに編成が変化していく構成も見事で、約35分のLPを最後まで飽きさせません。

評価の高さも折り紙付きです。AllMusicでは5つ星(満点)を獲得し、評論家のスコット・ヤナウは本作を、バレルがブルーノートに残した最もよく知られたセッションのひとつと位置づけています。『ペンギン・ガイド』も本作を「マイナー・クラシック(小さな古典)」と評し、タレンタインのゴージャスなトーンとアンサンブルの相性を称えました。2005年には米公共ラジオNPRの「Basic Jazz Library(基本ジャズ・ライブラリー)」にも選出されています。

その影響はジャズの枠を越えて広がっています。スティーヴィー・レイ・ヴォーンによる「Chitlins Con Carne」のカバー(1991年の『The Sky Is Crying』収録)はよく知られ、ジミ・ヘンドリックスやジョージ・ベンソンへの影響も指摘されています。エルヴィス・コステロの『Almost Blue』のジャケットが本作へのオマージュであることも有名で、現在も高音質再発が続く、ブルーノート屈指のロングセラーであり続けています。

こんな人におすすめ

  • これからジャズギターを聴き始めたい初心者 … 難解さがなく、メロディーもリズムも体にすっと入ってくる、入門盤の定番中の定番だから
  • ロックやブルースからジャズに興味を持った人 … スティーヴィー・レイ・ヴォーンもカバーした「Chitlins Con Carne」を入口に、地続きの感覚のままジャズへ踏み込めるから
  • ギターの伴奏やコードワークを学びたい中級者 … 「Saturday Night Blues」などで聴ける、ソロの背後での音の置き方がそのまま教材になるから
  • 夜、静かに音楽と向き合いたい人 … ピアノレス編成ならではの隙間と余韻が、深夜の時間にこのうえなく寄り添ってくれるから

まとめ

『Midnight Blue』は、「ジャズとブルースの橋渡し」というシンプルなコンセプトを、ピアノレス+コンガという大胆な編成と、たった1日のセッションで見事に形にしたアルバムです。派手な超絶技巧はありません。その代わりに、一音の重み、隙間の美しさ、ブルースの体温といった、ギター音楽のいちばんおいしい部分がぎゅっと詰まっています。

ジャズギターの入り口としても、聴き込むほどに発見のある愛聴盤としても、これほど頼りになる1枚はなかなかありません。今夜は部屋の明かりを少し落として、「Chitlins Con Carne」のイントロに耳を澄ませてみてください。タイトルどおりの”真夜中の青”が、きっとあなたの部屋にも広がるはずです。

関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました