エレクトリックギターが主役のジャズ/フュージョン界で、ナイロン弦のアコースティックギターだけを弾き続けてきたギタリストがいます。アール・クルー。ピックを持たず、指先で紡ぐ温かな音色と歌うようなメロディで、1970年代後半に「スムーズジャズ」と呼ばれるジャンルの原型を作った人物です。この記事では、その経歴と奏法の特徴、代表アルバムを紹介します。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | アール・クルー(Earl Klugh) |
| 生年 | 1953年9月16日(存命・現役) |
| 出身 | アメリカ・ミシガン州デトロイト |
| 楽器 | ナイロン弦のアコースティックギター(ガットギター) |
| 主な活動期 | 1970年頃~現在 |
経歴
ピアノからギターへ、そしてチェット・アトキンスとの出会い
1953年、ミシガン州デトロイト生まれ。6歳頃にピアノを習い始め、10歳でギターに転向します。決定的な転機は13歳頃。TV番組『ペリー・コモ・ショー』でカントリー・ギターの巨匠チェット・アトキンスの演奏を観て衝撃を受け、ピックを使わないフィンガースタイル・ギターの道を歩み始めました。多くのジャズギタリストがビバップやブルースを入り口にするなか、カントリー系フィンガーピッキングから出発したことが、後の唯一無二の個性につながっていきます。
10代でレコーディング・デビュー、ベンソンの下で経験を積む
1970年、まだ16歳頃の10代半ばで、ユセフ・ラティーフのアルバム『Suite 16』(Atlantic)に参加してレコーディング・デビュー。続いてジョージ・ベンソンの『White Rabbit』(1971年録音・1972年発売、CTI)に起用され、1973年からはベンソンのツアーバンドに加入します。
1974年には、チック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーにビル・コナーズの後任として短期間在籍しました。この時期の活動はライブのみで録音は残っておらず、後任にはアル・ディ・メオラが迎えられています。エレクトリック・フュージョンの最前線を体験しながら、自分の楽器はあくまでナイロン弦のアコースティック、という立ち位置がこの頃に固まっていきました。
ブルーノートからソロデビュー、『Finger Paintings』で飛躍
1976年、ブルーノートからソロデビュー作『Earl Klugh』を発表し、続けて『Living Inside Your Love』をリリース。そして1977年の3作目『Finger Paintings』が出世作となります。Billboardジャズ・チャートで6位を記録し、日本ではスイングジャーナル誌の1977年度録音賞を受賞。ナイロン弦ギターと洗練されたオーケストレーションを組み合わせたサウンドは、後のスムーズジャズの雛形として高く評価されることになります。
グラミー受賞、そして現在も第一線に
1979年にはボブ・ジェームスとの共演作『One on One』(Tappan Zee/Columbia)を発表。本作は1981年のグラミー賞「最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス」を受賞し、1982年にはゴールドディスクにも認定されました。1980年代は『Late Night Guitar』(1980年)、『Crazy for You』(1981年)、ボブ・ジェームスとの再共演『Two of a Kind』(1982年)、師匠格ベンソンとの双頭作『Collaboration』(1987年)と多作ぶりを発揮。少年時代の憧れだったチェット・アトキンス本人との共演も実現しています。
2005年頃からはコロラドスプリングスのブロードモア・ホテルでジャズ・イベント「Weekend of Jazz」を主宰し(2010年にはサウスカロライナ州キアワ・アイランドにも拡大)、2008年の『The Spice of Life』でグラミー・ノミネート。2013年にはソロギター中心の『HandPicked』を発表しました。通算成績はグラミー受賞1回・ノミネート13回、Billboardジャズ・アルバム・チャートTop10入り23作(うち1位5作)。今なお現役の、コンテンポラリー・ジャズ・ギター界を代表する存在です。
音楽的特徴・スタイル
クルーの演奏スタイルは、次のポイントに集約できます。
- ナイロン弦一筋…ジャズ界では極めて珍しく、キャリアを通じてナイロン弦のクラシックギター(ガットギター)だけを使用。ピックを使わない完全フィンガースタイルです。
- チェット・アトキンス直系のフィンガーピッキング…カントリー由来の奏法にジャズのハーモニー感覚を融合。ウェス・モンゴメリーやジョージ・ヴァン・イプスからの影響も公言しています。
- メロディ最優先…テクニックの誇示よりメロディを歌わせることを重視した演奏。温かく親密なトーンで「歌うようなギター」と評されます。
- ジャンルのブレンド…ジャズにポップ、R&B、ボサノヴァの要素を溶け込ませた聴きやすいサウンドで、後のスムーズジャズの原型を作りました。
- 編成の幅広さ…デイヴ・グルーシンらによる豪華なオーケストレーションとの共演から、ギター1本のソロ演奏まで対応。レパートリーは自作曲が中心です。
代表アルバム
キャリアの節目となった作品を年代順に紹介します。ソロデビュー作『Earl Klugh』と2作目『Living Inside Your Love』(ともに1976年発売)で基本スタイルはすでに出来上がっていますが、入門には次の1枚が最適です。
『Finger Paintings』(1977年発売)
※アフィリエイトリンク(PR)を含みます
※以下に楽天市場のアフィリエイトリンク(PR)を含みます。
ソロ3作目にして出世作。後にGRPレコードを設立するデイヴ・グルーシン&ラリー・ローゼンのコンビがプロデュースし、リー・リトナーやスティーヴ・ガッドといった超一流セッションマンが参加しています。ナイロン弦の柔らかな音色と洗練されたアレンジが溶け合った、スムーズジャズ・ギターの古典です。詳しくは『Finger Paintings』徹底解説(アルバム紹介記事)をどうぞ。
その後の重要作としては、グラミー受賞作となったボブ・ジェームスとの共演盤『One on One』(1979年発売)、ジョージ・ベンソンとの双頭作『Collaboration』(1987年発売)、円熟のソロギターをじっくり味わえる『HandPicked』(2013年発売、グラミー・ノミネート)がおすすめです。
影響・評価
アール・クルーは、エレクトリックギター全盛のジャズ/フュージョン界にあって、ナイロン弦のアコースティックギターだけで第一線に立ち続けてきた稀有な存在です。チェット・アトキンス流のフィンガーピッキングとジャズを橋渡しし、1970年代後半に「聴きやすくメロディアスなインストゥルメンタル音楽」の型を確立したことから、スムーズジャズというジャンルの創始者の一人と見なされています。
グラミー受賞1回・ノミネート13回、Billboardジャズ・チャートTop10入り23作(うち1位5作)という数字も、コンテンポラリー・ジャズ・ギタリストとして屈指の実績です。聴きやすさの裏に職人的な完成度が潜んでいるタイプの音楽で、ギターを弾く人ほど、その指先のコントロールに驚かされるはずです。
まとめ
ピアノから出発し、チェット・アトキンスに憧れてフィンガースタイルへ。ジョージ・ベンソンのバンドやリターン・トゥ・フォーエヴァーで経験を積み、ナイロン弦一本でスムーズジャズの原型を作り上げたアール・クルー。まずは出世作『Finger Paintings』で、その温かく歌うようなギターに触れてみてください。エレクトリックなジャズギターとはひと味違う世界が広がるはずです。



コメント