自分のギターフレーズとまったく同じメロディを、声で同時に歌う――「ギターとスキャットのユニゾン」と呼ばれるこの離れ業を初めて聴いたとき、誰もが耳を疑います。ジョージ・ベンソンは、超高速のシングルノートを流麗に紡ぐ本格派ジャズギタリストでありながら、ソウルフルな歌声でポップチャートの頂点にも立った稀有な存在。ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェスに若き日に励まされたと伝えられ、その系譜を受け継ぎながら、ジャズとポップスを股にかけた成功を収めた男です。今回はそのジャズギターの魅力をたっぷり紹介します。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | ジョージ・ワシントン・ベンソン(George Washington Benson) |
| 生年 | 1943年3月22日(存命) |
| 出身 | アメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグ |
| 楽器 | ギター、ボーカル |
| 主な活動期 | 1964年頃〜現在 |
経歴
ピッツバーグの神童、ソウルジャズで武者修行
ベンソンは幼い頃から「神童」として知られ、9歳頃にはレコード録音を経験したと伝えられています。1960年代前半にはオルガン奏者ジャック・マクダフのグループに参加。オルガンとギターがグルーヴを競い合うソウルジャズの現場で腕を磨き、注目を集めました。
1964年には初のリーダー作『The New Boss Guitar of George Benson』(Prestige)を発表。『It’s Uptown』(1966年発売)、『The George Benson Cookbook』(1967年発売)と快作を重ね、1968年発売のマイルス・デイヴィス『Miles in the Sky』収録「Paraphernalia」にギターで参加するなど、若手随一の実力派として頭角を現します。
CTI期──ジャズ界での評価を固める
1968年頃からは名プロデューサー、クリード・テイラーのもとで録音を重ねます。A&Mを経て、テイラー率いるCTIレコード(おおむね1971〜1976年)では、『White Rabbit』(1972年発売)や、ビルボードのジャズ・チャート1位に輝いた『Bad Benson』(1974年発売)など、大編成・オールスター編成の意欲作を連発しました。
『Breezin’』で歴史的ブレイク
1976年、ワーナー・ブラザースへ移籍。その第1作『Breezin’』(1976年1月録音・同年発売)が空前の大ヒットとなります。ビルボードのポップ/R&B/ジャズ全チャートで1位を獲得し、トリプル・プラチナに認定。史上最も売れたジャズ・アルバムの一つとなり、収録曲「This Masquerade」は翌1977年の第19回グラミーで最優秀レコード賞に輝きました。
以後、『In Flight』(1977年発売)、ライブ盤『Weekend in L.A.』(1978年発売)、クインシー・ジョーンズ制作の『Give Me the Night』(1980年発売)と商業的ピークを駆け抜け、ボーカル曲でR&B/ポップの大ヒットを連発します。
ジャズ回帰、そして現在
1990年代以降は『Tenderly』(1990年発売)や『Big Boss Band』(1991年発売)などジャズ回帰的な作品やスタンダード集も制作。2009年にはNEAジャズ・マスター(米国ジャズ界最高の栄誉の一つ)に認定されました。2024年に健康上の理由で国際ツアーを終えたものの、同年には長年温めてきた企画を完成させた『Dreams Do Come True: When George Benson Meets Robert Farnon』を発表。80代を迎えた今も現役のレジェンドです。
音楽的特徴
ギターとスキャットのユニゾン
最大のトレードマークは、ギターソロと同じフレーズを声で同時に歌うユニゾン・スキャット。指板の上を駆けるラインがそのまま歌になる瞬間は、テクニックと歌心が完全に一体化した、ベンソンならではの見せ場です。
超絶技巧と歌の両立
高速で流麗なシングルノート・ライン(単音でメロディを紡ぐ奏法)を操る本格派でありながら、ソウルフルなリードボーカルもこなす二刀流。この両方を最高水準で成立させたギタリストは、ジャズ史でもほとんど例がありません。
ソウルジャズ仕込みのグルーヴと美音
太く歌うようなトーン、切れ味鋭いリズム、そして滲み出るブルースフィーリング。オルガン・ジャズの現場で鍛えられたグルーヴ感が、すべての演奏の土台にあります。本格ジャズの出自を保ちつつR&Bやポップでも大衆的成功を収めた「クロスオーバーの体現者」という在り方も、彼の音楽性そのものです。
おすすめアルバム
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『Breezin’』(1976年)
まず聴くべき代表作。ワーナー移籍第1作にして、ポップ/R&B/ジャズの全チャート1位を制した歴史的ヒット作です。インストのタイトル曲「Breezin’」の爽快なグルーヴ、そしてリオン・ラッセル作のボーカル曲「This Masquerade」で聴ける歌とギター、スキャットとのユニゾン――ベンソンの魅力がこの1枚に凝縮されています。ピアノにはホルヘ・ダルトが参加。1977年の第19回グラミーでは「This Masquerade」が最優秀レコード賞を受賞しました。
コアなジャズギター・ファンには、CTI期の名盤『White Rabbit』(1972年発売)や『Bad Benson』(1974年発売)がおすすめ。ギタリストとしてのベンソンを存分に堪能できます。ライブの熱気なら「On Broadway」でグラミーに輝いた『Weekend in L.A.』(1978年発売)、ポップ側の頂点ならクインシー・ジョーンズ制作の『Give Me the Night』(1980年発売)。近年の『Guitar Man』(2011年発売)はギタリストの側面を前面に出したスタンダード集で、入門にも好適です。
使用機材
ギターは日本のアイバニーズ(Ibanez)と30年以上にわたり協業しており、シグネチャーの「GBシリーズ」が有名です。代表機種は1977年に発表されたフルアコースティック・ギター「GB10」。日本メーカーが生んだ名機として、国内のファンにも馴染み深い1本です。ほかにGB200やGB15、金箔仕上げの30周年記念モデルGB30THなどがあります。
アンプはポリトーン(Polytone)のコンボを『Breezin’』期から愛用してきたと紹介され、近年のライブではポリトーンとフェンダーを組み合わせるセッティングとされます(型番や時期は資料により差があります)。弦は本人シグネチャーのトマスティック・インフェルト GB112(フラットワウンド)とされています。
影響・評価
ベンソンが影響を受けた二大源流として挙げられるのが、チャーリー・クリスチャンとウェス・モンゴメリー。加えてケニー・バレル、タル・ファーロウ、グラント・グリーン、ジャンゴ・ラインハルトの名前も、本人や評者からたびたび言及されます。ウェスやバレル、グリーンが築いたオルガン・ジャズ〜ソウルジャズの系譜を愛するファンにとって、ベンソンはまさにその正統な後継者。若き日にウェス本人から評価され励まされたと伝えられ、この出会いがスターダムへの道を後押ししたとされています。本人も、クリスチャンやウェスら「余計なデバイスに頼らなかった」先人から受け継いだものを大切にしている、という趣旨の発言を残しています。
受賞歴も圧巻です。グラミー賞は10回受賞・25回ノミネートと紹介され(数え方には資料差があります)、2009年のNEAジャズ・マスター認定、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムの星、バークリー音楽大学からの名誉音楽博士号(1990年)など、ジャズ界内外での評価は揺るぎません。
まとめ
本格ジャズの出自を守りながら、ポップの頂点まで駆け上がったジョージ・ベンソン。超絶技巧のギター、ソウルフルな歌、そして両者が溶け合うスキャットのユニゾン――どこから聴いても「ベンソンにしかできない音楽」がそこにあります。入門者はまず名盤『Breezin’』から、ジャズギター好きはCTI期の作品から。80代の今も現役を貫くレジェンドの音楽を、ぜひ体感してください。



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