ジミー・レイニー(Jimmy Raney)『A』徹底解説|クール・バップギターの金字塔

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アルファベット一文字だけの、そっけないタイトル。しかし中身は、1950年代クール・バップギターの到達点です。スタン・ゲッツ・クインテットで名を上げたジミー・レイニーが、リーダーとしての実力を確立した代表作『A』。ホーンのように歌うシングルラインと、師ホール・オーヴァートン仕込みの高度な和声感覚が詰まった一枚で、AllMusicでは5つ星満点という高評価を得ています。

ジミー・レイニーとは?(人物紹介記事)でレイニーに興味を持った方に、まず聴いてほしいのがこのアルバム。この記事では、録音の背景から全12曲の聴きどころまで、じっくり掘り下げていきます。

アルバム基本情報

項目 内容
アーティスト ジミー・レイニー(Jimmy Raney)
発売年 1957年
レーベル Prestige(PRLP 7089)
録音 1954年5月28日、1955年2月18日・3月8日/ヴァン・ゲルダー・スタジオ(ニュージャージー州ハッケンサック)

どんなアルバム?

『A』は、2つの時期のセッションをまとめた編集アルバムです。1954年5月28日のカルテット・セッション(4曲)と、トランペットのジョン・ウィルソンを加えた1955年2月18日・3月8日のクインテット・セッション(8曲)を、1957年に12インチLPとして発売したもの。録音はすべて、名エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーによるハッケンサック・スタジオでの収録です。

もともとトラック5~12は、10インチLP『Jimmy Raney 1955』(PRLP 199)として先に世に出ていました。1954年録音の4曲については、ディスコグラフィー・サイトのjazzdisco.orgがNew Jazz盤(NJLP 1101)を初出としています。なお、一文字タイトル『A』の由来については確かな資料が見当たらず、はっきりしたことは分かっていません。

注目したいのはメンバーの顔ぶれです。ピアノのホール・オーヴァートンは、レイニーが作曲を師事した相手。ベースのテディ・コティックは、スタン・ゲッツ・クインテット時代の同僚です。気心の知れた面々との録音だからこそ、レイニーの持ち味である抑制の効いたクールなプレイが存分に引き出されました。さらに全12曲中5曲がレイニーのオリジナルで、作曲家としての才能もはっきり示された作品になっています。

評価も高く、AllMusicは5つ星満点(ケン・ドライデンが「レイニーのリーダー作中最良の演奏を含む」といった趣旨で評しています)、ペンギン・ガイドは4つ星。ゲッツのもとを離れたレイニーがリーダーとして確立した、クール・バップギターの代表作とされています。

参加メンバー

  • ジミー・レイニー(ギター) … 全曲参加。本作の主役。ホーンのように滑らかなシングルラインが持ち味です。
  • ジョン・ウィルソン(トランペット) … トラック5~12に参加。ギターと旋律を絡ませ、クインテット・パートに彩りを加えます。
  • ホール・オーヴァートン(ピアノ) … 全曲参加。レイニーが作曲を師事した、クラシックの素養も深い音楽家です。
  • テディ・コティック(ベース) … 全曲参加。ゲッツ・クインテット時代からの同僚で、レイニーとの相性は折り紙付き。
  • アート・マーディガン(ドラム) … トラック1~4(1954年カルテット・セッション)に参加。
  • ニック・スタビュラス(ドラム) … トラック5~12(1955年クインテット・セッション)に参加。

全曲解説

前半4曲がギター+ピアノ・トリオのカルテット、後半8曲がトランペット入りのクインテットという構成。レイニーのオリジナル5曲とスタンダードがバランスよく並びます。

1. Minor(作曲:ジミー・レイニー)

1954年カルテット・セッションからのオープナーで、レイニーのオリジナル。オーヴァートン仕込みの対位法的・クラシック的な素養が表れたナンバーとして知られ、単なるバップ・ブロウイングにとどまらない構築美を感じさせます。まず本作の「作曲家レイニー」の顔に出会える一曲です。

2. Some Other Spring(作曲:ハーゾグJr./キッチングス)

しっとりとした叙情が魅力のスタンダード。強いアタックを避けたレイニーの柔らかな音色が、この曲の陰影によく合います。オーヴァートンの端正なピアノとの静かな対話も聴きどころです。

3. Double Image(作曲:ジミー・レイニー)

「二重像」というタイトルのオリジナル。「Minor」と並んで、対位法的な書法などクラシック由来の発想がうかがえる曲として言及される、本作の中でも意欲的なナンバーです。

4. On the Square(作曲:ジミー・レイニー)

カルテット・パートを締めくくるオリジナル。ギター、ピアノ、ベース、ドラムの4人による、風通しのよいアンサンブルを楽しめます。

5. Spring Is Here(作曲:ロジャース/ハート)

ここからジョン・ウィルソンのトランペットが加わるクインテット編成。ロジャース&ハートの名スタンダードを、ギターとトランペットの組み合わせで聴かせます。管楽器と並んでも埋もれない、レイニーのホーンライクなラインに注目です。

6. One More for the Mode(作曲:ジミー・レイニー)

レイニーのオリジナル。ひねりの効いたタイトルからも、書き手としての遊び心がうかがえます。オーヴァートンに鍛えられた和声感覚が生きたナンバーです。

7. What’s New?(作曲:バーク/ハガート)

数多くの名演で知られる定番バラード。抑えたダイナミクスでメロディを歌わせるレイニーの美学が、もっとも素直に伝わるタイプの曲です。

8. Tomorrow Fairly Cloudy(作曲:ジミー・レイニー)

「明日はところにより曇り」といった天気予報風のユーモラスなタイトルを持つオリジナル。こうした曲名のセンスにも、レイニーの知的な人柄がにじみます。

9. A Foggy Day(作曲:ジョージ&アイラ・ガーシュウィン)

ガーシュウィン兄弟の有名スタンダード。おなじみのメロディが、クールなバップの語彙でどう料理されるか。スタンダード解釈の手腕を聴き比べるのも本作の楽しみ方のひとつです。

10. Someone to Watch over Me(作曲:ジョージ&アイラ・ガーシュウィン)

同じくガーシュウィン作の名バラード。柔らかいトーンで爪弾かれるメロディは、深夜にひとりで聴きたくなる美しさです。

11. Cross Your Heart(作曲:デシルヴァ/ジェンスラー/レイニー)

1926年に生まれた古いポピュラー・ソングで、クレジットにはレイニーの名前も併記されています。戦前の楽曲をモダンなバップの文脈に引き込むあたりに、レイニーの引き出しの多さが表れています。

12. You Don’t Know What Love Is(作曲:デ・ポール/レイ)

アルバムを締めくくるのは、哀感に満ちたマイナー調のスタンダード。レイニーの陰影あるプレイと相性のよい選曲で、余韻を残したままアルバムは幕を閉じます。

聴きどころ

本作最大の聴きどころは、なんといっても「ホーンのように歌うギター」です。チャーリー・パーカーのビバップ語彙をギターに移植したレイニーの長いシングルラインは、トランペットが隣にいるクインテット・パートでも埋もれるどころか、対等に旋律を紡いでいきます。

同時代のタル・ファーロウが豪快な高速フレーズで聴き手を圧倒するタイプだとすれば、レイニーは強いアタックを避けた柔らかい音色と抑制されたダイナミクスで聴かせるタイプ。この対照的な2人が1950年代モダン・ジャズギターの双璧とされたのですから、聴き比べてみると当時のシーンの豊かさがよく分かります。

そしてもうひとつの魅力が、5曲のオリジナルに表れた作曲家としてのレイニー。「Minor」「Double Image」に見られる対位法的・クラシック的な発想は、ホール・オーヴァートンに作曲を師事した成果であり、ただのブロウイング・セッションとは一線を画す設計感を本作に与えています。

こんな人におすすめ

  • クールで上品なジャズギターが好きな人 … 派手さより深み。聴くほどに味わいが増すタイプの名盤です。
  • スタン・ゲッツ経由でレイニーを知った人 … ゲッツ退団後のレイニーがリーダーとして確立した姿を、まとめて味わえます。
  • ジム・ホールのような知性派ギターが好きな人 … レイニーのホーンライクなフレージングは、ジム・ホール以降のギタリストを語る際の比較対象にもなっています。系譜をさかのぼる一枚としてどうぞ。
  • ビバップをギターでどう弾くかを研究したいギタリスト … パーカー語彙のギターへの翻訳例として、これ以上ない教材です。

まとめ

『A』は、2つのセッションを束ねた編集盤でありながら、「抑制の効いたクールなバップ・ギター」という一本の芯が通った、ジミー・レイニーのリーダー作の金字塔です。ホーンのように歌うライン、師オーヴァートンとの信頼関係、そして作曲家としての顔。レイニーという音楽家の魅力が、この一文字のタイトルの下にぎゅっと詰まっています。

本作を気に入ったら、人物紹介記事で触れているパリ録音の『Jimmy Raney Visits Paris』や、復帰作『The Influence』へと聴き進めるのがおすすめ。静かに燃えるレイニーの世界を、ぜひじっくり味わってみてください。

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