1994年12月17日、ニューヨークのスタジオでたった1日で録音された『Signs of Life(サインズ・オブ・ライフ)』は、ギタリスト、ピーター・バーンスタインのリーダー第2作です。共演はブラッド・メルドー、クリスチャン・マクブライド、グレゴリー・ハッチンソン。のちにジャズ界を代表する存在となる名手たちが、まだ全員20代だった時期に顔を合わせた、いわば「ブレイク直前のドリームチーム」によるカルテット作品です。派手な仕掛けは何もありません。それでも、歌心あふれるギター、リリカルなピアノ、強靭でしなやかなリズムが噛み合っていく様子は、王道カルテット・ジャズの気持ちよさをまっすぐに教えてくれます。
リーダーのバーンスタインは、ウェス・モンゴメリーやグラント・グリーンの系譜を1990年代に受け継いだ「ビバップ〜ハードバップ直系」の本格派ギタリストで、名手ジム・ホールに見出されたことでも知られます。彼の経歴や人柄については ピーター・バーンスタインとは?(人物紹介記事) で詳しく紹介していますので、まだの方はあわせてどうぞ。本記事では、その出世作のひとつである本作をじっくり解説します。
- アルバム基本情報
- どんなアルバム?
- 参加メンバー
- 全曲解説
- 1. Blues for Bulgaria(作曲:Peter Bernstein)
- 2. Jet Stream(作曲:Peter Bernstein)
- 3. Jive Coffee(作曲:Peter Bernstein)
- 4. The Things We Did Last Summer(作曲:Jule Styne / Sammy Cahn)
- 5. Minor Changes(作曲:Peter Bernstein)
- 6. Will You Still Be Mine(作曲:Matt Dennis / Tom Adair)
- 7. Signs of Life(作曲:Peter Bernstein)
- 8. Nobody Else But Me(作曲:Jerome Kern / Oscar Hammerstein II)
- 9. My Ideal(作曲:Richard A. Whiting / Newell Chase / Leo Robin)
- 聴きどころ・なぜ名盤なのか
- こんな人におすすめ
- まとめ
- 関連記事
アルバム基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発売 | 1995年5月2日 |
| レーベル | Criss Cross Jazz(オランダ)/CRISS 1095 CD |
| 録音日 | 1994年12月17日(1日で録音) |
| 録音場所 | ニューヨーク、RPM Studios |
| プロデューサー | ヘリー・テーケンス(Gerry Teekens) |
編成はギター+ピアノ+ベース+ドラムスのカルテット(4人編成)で、オリジナル盤はCDのみ・全9曲、ボーナストラックのない構成です。
※以下に楽天市場のアフィリエイトリンク(PR)を含みます。
※『Signs of Life』の新品CDは現在楽天市場で見つかりにくいため、リンクでは同アーティストの『ストレンジャー・イン・パラダイス(Stranger in Paradise)』を紹介しています。
どんなアルバム?
本作を送り出したCriss Cross Jazz(クリス・クロス・ジャズ)は、オランダ人プロデューサーのヘリー・テーケンスが主宰したレーベルです。1980〜90年代のニューヨークで腕を磨く若手本格派を、1日のセッションで集中的に録音して世に残す——そんな独自のスタイルで知られました。本作もその典型で、1994年12月17日のわずか1日で全9曲が吹き込まれています。エンジニアは同レーベルの録音を数多く手がけた名匠マックス・ボレマン。飾らない録音スタイルだからこそ、若手4人の生々しい実力がそのまま封じ込められています。
バーンスタインは1967年ニューヨーク生まれ、録音当時27歳。ニュースクール在学中にジム・ホールに見出され、1990年のJVCジャズ・フェスティバルでホールが招聘したギター・コンサートに出演して注目を集めました。その後はラリー・ゴールディングスのオルガントリオや、ルー・ドナルドソン、メルヴィン・ライン(ウェス・モンゴメリーの盟友だったオルガニスト)らのサイドマンとして急速に評価を高めていた時期です。本作は、初リーダー作『Somethin’s Burnin’』(1992年録音、同じくCriss Cross)に続く第2作にあたります。
注目すべきは、その顔ぶれとタイミングです。ピアノのメルドーは、初リーダー作『Somethin’s Burnin’』にも参加していた旧知の仲で、当時はジョシュア・レッドマン・カルテットの一員として頭角を現していた頃。自身の初リーダー作『Introducing Brad Mehldau』の録音(1995年)より前ですから、本作は「リーダー・デビュー前夜のメルドー」を捉えた録音として資料的な価値も高いのです。ベースのマクブライドも、ヴァーヴからのリーダー・デビュー作『Gettin’ to It』(1995年)の発表直前という、まさにブレイク前夜。ドラムスのハッチンソンはベティ・カーターやレイ・ブラウン、ロイ・ハーグローヴらとの仕事で知られた俊英でした。
そしてこの物語には続きがあります。カルテットは録音から20年あまりを経た2017年、同一メンバーによる再結成ライブ盤『Signs LIVE!』(Smoke Sessions、2枚組)を発表。実はこの4人が揃って演奏したのは1994年の録音のわずか数時間だけで、ライブでの共演はこの再結成が初めてだったといいます。「Blues for Bulgaria」「Jive Coffee」など本作の曲が再演され、それぞれ大物となった4人が同じ曲に立ち返る姿が改めて話題を呼びました。若き日の1日セッションが、20年後にもう一度息を吹き返した——このストーリーこそ、本作が長く愛されてきた証といえるでしょう。
参加メンバー
全員が当時20代。のちの活躍を知ったうえで聴くと、この組み合わせの贅沢さに驚かされます。「スター誕生前夜のドリームチーム」と語られるのも納得のカルテットです。
- ピーター・バーンスタイン(ギター) … 本作のリーダー。ジム・ホールに見出された、ビバップ〜ハードバップ直系の90年代世代を代表するギタリスト。歌うようなシングルライン(単音でメロディを紡ぐ奏法)が持ち味です。
- ブラッド・メルドー(ピアノ) … 当時はジョシュア・レッドマン・カルテットの一員で、リーダー・デビュー前。のちに現代ジャズピアノを代表する存在となります。
- クリスチャン・マクブライド(ベース) … 当時最も引っ張りだこだった若手ベーシストのひとり。すでにヴァーヴと契約しており、リーダー・デビュー作『Gettin’ to It』の発表を目前に控えていました。
- グレゴリー・ハッチンソン(ドラムス) … ベティ・カーター、レイ・ブラウン、ロイ・ハーグローヴらとの仕事で知られた俊英ドラマー。強靭かつしなやかなドラミングで本作を支えます。
全曲解説
オリジナル5曲+スタンダード4曲、全9曲を順に見ていきましょう。
1. Blues for Bulgaria(作曲:Peter Bernstein)
バーンスタイン作のブルースで幕開け。のちのちまでライブの定番であり続け、2017年の『Signs LIVE!』でも再演された代表曲です。まずはこの1曲で、カルテットの体温とブルースフィーリングを感じてみてください。
2. Jet Stream(作曲:Peter Bernstein)
続くオリジナル。AllMusicのスコット・ヤナウがアルバムのハイライトに挙げた快演で、タイトル通り勢いよく飛翔するようなナンバーです。
3. Jive Coffee(作曲:Peter Bernstein)
有名スタンダード「Tea for Two」をバーンスタイン流にひねったオリジナル(ヤナウ評)。コード進行を下敷きにしつつ5拍子のグルーヴに乗せ替えたとされる仕掛けで、「お茶」を「コーヒー」に替えたタイトルの洒落も効いています。本作でも9分42秒というとりわけたっぷりとした尺で展開され、こちらも後年のライブ定番曲になりました。
4. The Things We Did Last Summer(作曲:Jule Styne / Sammy Cahn)
スタイン=カーンの名スタンダード。ここまでのオリジナル3連発から一転、しっとりとした歌もの解釈で、バーンスタインの「歌心」が前面に出ます。
5. Minor Changes(作曲:Peter Bernstein)
アルバム中盤に置かれたオリジナル。「マイナー(短調)」と「小さな変化」を掛けたと思われる、洒落たタイトルの1曲です。
6. Will You Still Be Mine(作曲:Matt Dennis / Tom Adair)
マット・デニスの佳曲で、ヤナウがハイライトに挙げた1曲。カルテットの躍動感をストレートに味わえるスタンダード解釈です。
7. Signs of Life(作曲:Peter Bernstein)
タイトル曲となるオリジナル。9分41秒の長尺でじっくりと展開され、4人のインタープレイ(演奏者同士の即興の対話)をたっぷり味わえる、アルバムの核となる演奏です。
8. Nobody Else But Me(作曲:Jerome Kern / Oscar Hammerstein II)
ジェローム・カーン作の、ジャズマン泣かせの難曲スタンダード。ヤナウは特にメルドーのソロを称賛しており、「ブレイク直前のメルドー」を聴くならまずこの曲でしょう。
9. My Ideal(作曲:Richard A. Whiting / Newell Chase / Leo Robin)
リチャード・ホワイティングのバラードで、アルバムは静かに幕を閉じます。クローザーながらヤナウがハイライトに挙げる、余韻の深い演奏です。
聴きどころ・なぜ名盤なのか
まず聴いてほしいのは、バーンスタインのギターの「歌」です。速弾きで圧倒するタイプではなく、一音一音を歌わせるシングルラインで聴き手を引き込むスタイル。AllMusicのヤナウは本作に5点満点中4.5点の高評価を与え、前作からバーンスタインとメルドーの2人がソリストとして大きく成長したこと、粒揃いの楽曲がソリストの最良の演奏を引き出していることを評価し、「素晴らしい力作」と結んでいます。オリジナル5曲+スタンダード4曲というバランスの良い選曲も、この評価を支えるポイントです。
もうひとつの聴きどころは、やはりリズムセクションを含めた「メンバーの豪華さ」です。リーダー・デビュー前のメルドー、ヴァーヴ・デビュー直前のマクブライド、俊英ハッチンソン。全員がその後スターダムに上ったからこそ、本作は「未来の大物たちの原点を収めた記録」として現在も語り継がれ、2017年に同一メンバーで『Signs LIVE!』が実現したことで、その価値はさらに確かなものになりました。
ジャズギター史の観点でも、本作は重要です。バーンスタインは「ロックを経由しない、ビバップ〜ハードバップ直系の90年代世代」の筆頭格。ウェス・モンゴメリーやグラント・グリーンの伝統が90年代にどう受け継がれたかを知るうえで、本作はその初期代表作・出世作として外せない1枚と位置づけられています。
こんな人におすすめ
- ジャズギターを聴き始めたばかりの人 … 王道カルテットの分かりやすい編成と歌心あるギターで、「ジャズギターの気持ちよさ」を素直に体感できるからです。
- ブラッド・メルドーやクリスチャン・マクブライドのファン … スターになる直前の2人の瑞々しい演奏を捉えた、貴重なドキュメントだからです。
- ウェス・モンゴメリーやグラント・グリーンが好きな人 … その系譜を90年代に更新したバーンスタインの原点で、好みが地続きだからです。
- 『Signs LIVE!』を先に聴いた人 … 20年前のオリジナル・スタジオ録音と聴き比べることで、カルテットの深化まで味わえるからです。
まとめ
『Signs of Life』は、27歳のピーター・バーンスタインが、のちの大スターたちとたった1日で録り上げたリーダー第2作です。派手な仕掛けは何もありません。良い曲、良いメンバー、良い演奏——それだけで30年あまり経った今も聴き継がれる、ストレートアヘッド・ジャズの美しいお手本のようなアルバムです。
まずは代表曲「Blues for Bulgaria」から、あるいはメルドーのソロが光る「Nobody Else But Me」から聴いてみてください。4人の若者たちが放つ「生命の兆し(Signs of Life)」は、きっとあなたの耳にも届くはずです。そして気に入ったら、20年後の再会『Signs LIVE!』へ。この2枚を往復する楽しみこそ、本作が名盤である何よりの証拠です。
関連記事
- ピーター・バーンスタインとは?(人物紹介記事) … 経歴・音楽的特徴・名盤を紹介しています。
- ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)
- 『Sweet Georgia Peach』徹底解説(アルバム紹介記事)



コメント