アル・ディ・メオラ(Al Di Meola)『Elegant Gypsy』徹底解説|超絶技巧とラテンの情熱が出会ったフュージョン史の金字塔

アル・ディ・メオラ Elegant Gypsy 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

1977年春、当時まだ22歳の若きギタリストが放ったセカンド・アルバム『Elegant Gypsy(エレガント・ジプシー)』。超高速のエレクトリック・ピッキングと、地中海の香りをまとった叙情的なアコースティック・ギターが同居する本作は、フュージョン(ジャズとロックなどを融合させたジャンル)のギター作品としては異例のゴールドディスクに輝きました。フラメンコの巨匠パコ・デ・ルシアとの歴史的な初共演も刻まれた、「速弾きギターの原点」というべき名盤です。

ディ・メオラというギタリストの歩みについては、アル・ディ・メオラとは?(人物紹介記事)で詳しくまとめています。この記事では、その出世作となった『Elegant Gypsy』に焦点を絞り、制作背景から全曲の聴きどころまでを解説します。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1977年4月
レーベル Columbia(日本盤はCBS/Sony)
録音日 1976年12月〜1977年1月
録音場所 エレクトリック・レディ・スタジオ(ニューヨーク)
プロデューサー アル・ディ・メオラ本人

編成はギター、キーボード、ベース、ドラム、パーカッションによるクインテット(5人編成)が基本で、曲ごとにキーボードとドラムの担当が2組で入れ替わります。

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どんなアルバム?

『Elegant Gypsy』は、前年のデビュー作『Land of the Midnight Sun』(1976)に続くセカンド・ソロ作です。録音時点でディ・メオラはまだ22歳。チック・コリア率いる人気バンド、Return to Forever(リターン・トゥ・フォーエヴァー)の一員として名盤『Romantic Warrior』(1976)を世に送り出した直後の時期です。黄金期カルテットが活動を終えるなか、本作の成功が彼のソロ・キャリア本格化への転機となりました。

録音は、ジミ・ヘンドリックスが設立したニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで行われ、プロデュースは本人が担当。ラテンやフラメンコの語法をフュージョンに大胆に持ち込み、ミュートを効かせた高速オルタネイト・ピッキング(ピックを上下交互に振り、右手で弦を軽く押さえて歯切れよく弾く奏法)というトレードマークを確立した、彼のスタイルの原点といえる一枚です。

本作最大のエピソードが、「Mediterranean Sundance」でのパコ・デ・ルシアとの初共演です。パコが初めてアメリカを訪れた際に録音されたもので、ディ・メオラ本人の回想(Guitar Player誌、2009年)によれば、ファースト・テイクの後にパコが一服してリラックスし、続くセカンド・テイクが決定テイクになったといいます。「魔法のような一度きりの演奏で、コントロールルームにいた全員が圧倒された」と本人が語る、まさに一期一会の録音です。

また、「Race With Devil On Spanish Highway」は、ディ・メオラが少年時代に弾こうとしたキンクス「You Really Got Me」のリフに着想を得たとされ、ロック少年としてのルーツも顔をのぞかせます。印象的なジャケットは、グラフィックデザイン界の大物ポーラ・シェアのデザインです。

参加メンバー

ベースとパーカッションがバンド演奏の4曲を支え、その上でキーボードとドラムの2組が曲ごとに入れ替わるという贅沢な布陣です。なお、アコースティック主体の「Mediterranean Sundance」と「Lady Of Rome, Sister Of Brazil」の2曲は、リズム隊なしで演奏されます。

  • アル・ディ・メオラ(エレクトリック/アコースティック・ギター、ピアノ、シンセサイザー、パーカッション) … 本作の主役。全曲の演奏に加え、作曲・アレンジ・プロデュースも担う
  • パコ・デ・ルシア(アコースティック・ギター) … フラメンコ・ギターの巨匠。「Mediterranean Sundance」のみに参加
  • ヤン・ハマー(キーボード) … ミニムーグ(アナログ・シンセサイザー)を駆使する名手。「Flight Over Rio」「Elegant Gypsy Suite」に参加
  • バリー・マイルズ(キーボード) … エレクトリック・ピアノとシンセサイザーで「Midnight Tango」「Race With Devil On Spanish Highway」を担当
  • アンソニー・ジャクソン(ベース) … バンド編成の4曲すべてでリズムの土台を支えるエレクトリック・ベース奏者
  • スティーヴ・ガッド(ドラムス) … 「Flight Over Rio」「Elegant Gypsy Suite」に参加
  • レニー・ホワイト(ドラムス) … Return to Foreverでの同僚。「Midnight Tango」「Race With Devil On Spanish Highway」を担当
  • ミンゴ・ルイス(コンガ、パーカッション、シンセサイザー、オルガン) … バンド編成の4曲に参加。1曲目「Flight Over Rio」の作曲者でもある

全曲解説

オリジナルLPは全6曲、作曲は1曲目を除きすべてディ・メオラ自身によるものです。

1. Flight Over Rio(作曲:Mingo Lewis)

ブラジルのカーニバルを思わせるパーカッシブなオープナーで、唯一の他人曲(パーカッションのミンゴ・ルイス作)です。ルイスのコンガ、スティーヴ・ガッドのドラム、ヤン・ハマーのミニムーグが交錯するラテン・フュージョンで、アルバムの熱気を一気に立ち上げます。

2. Midnight Tango(作曲:Al Di Meola)

タンゴの情感を下敷きにした一曲。バリー・マイルズとレニー・ホワイトの組による演奏で、ラテンの哀愁とフュージョンの推進力が溶け合います。アルバム前半の要となる一曲です。

3. Mediterranean Sundance(作曲:Al Di Meola)

パコ・デ・ルシアとのアコースティック・ギター・デュオで、本作のハイライト。ジャズとフラメンコの融合の金字塔と呼ばれる演奏で、後にジョン・マクラフリンを加えたライブ盤『Friday Night in San Francisco』(1981)のバージョンで世界的に有名になります。その原点がこのスタジオ録音です。

4. Race With Devil On Spanish Highway(作曲:Al Di Meola)

タイトルを訳せば「スペインの高速道路での悪魔とのレース」。その名のとおり、ミュートを効かせた高速リフとスリリングな展開が続く、本作を代表するシグネチャー曲。速弾きギター史に残るナンバーです。

5. Lady Of Rome, Sister Of Brazil(作曲:Al Di Meola)

嵐のような前曲の後に置かれた、短いアコースティック小品。「メロディとテクニックのバランスはアルバム随一」という評もある、ディ・メオラの叙情面が凝縮された間奏曲的な存在です。

6. Elegant Gypsy Suite(作曲:Al Di Meola)

組曲形式のクローザー。ヤン・ハマーとスティーヴ・ガッドの布陣で、静と動を行き来しながらアルバムを締めくくる大作です。タイトル曲にふさわしい、本作の集大成です。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

まず何よりも、超絶技巧をフュージョンの中心に据えたスタイルの確立です。ミュートを効かせた高速ピッキングは本作でトレードマークとして定着し、その影響は後の速弾き系ロック/メタル・ギタリストにまで広く及んでいると指摘されています。エレクトリックの疾走とアコースティックの叙情、この振れ幅の大きさがアルバムを最後まで飽きさせません。

もう一つの柱が、「Mediterranean Sundance」によるジャズとフラメンコの越境です。パコ・デ・ルシアとの共演は『Friday Night in San Francisco』へと続く流れの出発点となり、この1曲だけでも本作は歴史的な価値を持つといえます。

評価と実績も折り紙付きです。AllMusicは5点満点中5点を付け、Guitar Player誌ではベスト・ギター・アルバムに選出。Billboard 200で58位、ジャズ・アルバム・チャートで5位を記録し、RIAAゴールド認定(50万枚)に到達しました。重量盤LPでの復刻に加え、40周年ツアーの模様を収めた本人の再演ライブ盤『Elegant Gypsy & More Live』(2018)も登場するなど、いまなお愛され続けています。

こんな人におすすめ

  • 速弾き・テクニカル系ギターが好きな人 … ミュートを効かせた高速ピッキングの原点。ロック/メタル系リスナーにもおすすめです
  • 『Friday Night in San Francisco』が好きな人 … あの「Mediterranean Sundance」のオリジナル・スタジオ録音を、誕生の瞬間の空気ごと味わえます
  • ラテンやフラメンコの香りがするギター音楽を探している人 … タンゴ、ブラジル、地中海と、ラテンの語法がアルバム全体を貫いています
  • フュージョンの名盤を順に聴いていきたい初心者の人 … 全6曲・約37分とコンパクトで、フュージョン・ギターの魅力が一枚で見渡せます

まとめ

『Elegant Gypsy』は、22歳のアル・ディ・メオラがReturn to Foreverでの濃密な経験を経て作り上げた、若さと完成度が同居するセカンド・アルバムです。超高速のエレクトリック・リフ、叙情的なアコースティック、そしてパコ・デ・ルシアとの一期一会のデュオ。フュージョン史における「ギター・アルバム」の一つの頂点です。

派手な技巧に耳を奪われがちですが、聴き込むほどにメロディの美しさと構成の巧みさが立ち上がってくるのも本作の魅力です。まずはハイライトの「Mediterranean Sundance」から、そして「Race With Devil On Spanish Highway」の疾走感へ。聴き終える頃には、きっとディ・メオラというギタリストの虜になっているはずです。

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