ジョン・マクラフリンは、1942年イングランド生まれのジャズギタリストです。マイルス・デイヴィスの名盤『Bitches Brew』(1970年)に、その名もずばり「John McLaughlin」という曲が収録されているほど、帝王から信頼されたギタリストです。ロック並みの大音量と超高速ピッキング、そして変拍子(拍の数が通常と異なる複雑なリズム)をジャズに持ち込み、フュージョンというジャンルの土台を築きました。ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェスが「歌うようなフレーズ」の名手だとすれば、マクラフリンは「速さとリズム」の面からジャズギターの可能性を押し広げた存在です。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | ジョン・マクラフリン(John McLaughlin) |
| 生没年 | 1942年1月4日生まれ(存命・2026年時点で84歳) |
| 出身 | イングランド、ヨークシャー州ドンカスター |
| 楽器 | エレクトリック/アコースティックギター、ギターシンセサイザー |
| 主な活動期 | 1960年代〜現在 |
経歴
ヨークシャーからロンドンへ(1942〜1968年)
1942年、ドンカスターに生まれます。母はヴァイオリニストで、11歳のときに兄から譲り受けたギターにのめり込み、タル・ファーロウやジャンゴ・ラインハルトのジャズを独学で吸収しました。1960年代初頭にロンドンへ出ると、グラハム・ボンド・カルテット(1963年)に参加するなど、英国のR&B・ジャズシーンで腕を磨きます。若き日のジミー・ペイジにギターを教えたという逸話も残っています。
渡米、マイルス・デイヴィスとの共演(1969〜1972年)
1969年1月に初リーダー作『Extrapolation』を録音し、同年渡米してトニー・ウィリアムス率いるライフタイムに参加します。さらに1969年から1972年にかけてはマイルス・デイヴィスの「電化」路線を支え、『In a Silent Way』(1969年)、『Bitches Brew』(1970年)、『A Tribute to Jack Johnson』(1971年)などの重要作に名を連ねました。
マハヴィシュヌ・オーケストラとシャクティ(1971〜1977年)
1971年、自身のバンド「マハヴィシュヌ・オーケストラ」を結成します。バンド名は導師シュリ・チンモイから授かった霊名にちなみます。『The Inner Mounting Flame』(1971年)と『Birds of Fire』(1973年、米Billboard 200で15位)は、ジャズロック/フュージョンの頂点とされる2枚です。第1期は1973年末に解散し、1974〜76年には第2期マハヴィシュヌとして『Apocalypse』(1974年、ロンドン交響楽団と共演)などを発表しました。並行して、タブラ奏者ザキール・フセインらと組んだアコースティック・バンド「シャクティ」では、1975年7月のライヴを収めたデビュー作『Shakti with John McLaughlin』(発売は1976年)を残しています。
ギタートリオから80代の現役へ(1980年代〜現在)
1981年、パコ・デ・ルシア、アル・ディ・メオラとのギタートリオによるライヴ盤『Friday Night in San Francisco』が世界的ヒットとなります。1984〜87年にはマハヴィシュヌ名義を再始動。1990年代後半に「リメンバー・シャクティ」を結成し、2007年からは自身のバンド「4th Dimension」で活動しています。グラミー賞は2010年、2018年など複数回受賞。2020年代にはシャクティを再結成し、46年ぶりのスタジオ作『This Moment』(2023年)が2024年のグラミー賞(ベスト・グローバル・ミュージック・アルバム)に輝きました。同年にDownBeat誌の殿堂入りも果たし、2026年にも新作が発表されるなど、80代の現在も第一線に立ち続けています。
音楽的特徴
超高速・高精度のオルタネイト・ピッキング
オルタネイト・ピッキング(ピックの上下動を交互に繰り返す奏法)を極限まで高速化・精密化し、歪んだ大音量サウンドで、ジョン・コルトレーン譲りの音数の多いフレーズを正確に弾き切ります。後の「速弾き」系ギタリストの原型となったスタイルです。
変拍子とインド音楽の導入
インド古典音楽のリズム周期「ターラ」や旋法を採り入れ、5拍子や7拍子、「Birds of Fire」の18/8拍子といった複雑な拍子を常用します。バンド全体でユニゾンする鋭いリフも特徴です。
ジャンル横断のハイブリッド
フラメンコ、インド古典、ブルース、西洋クラシックまでを一つのギター語法に統合。エレクトリックとアコースティックを自在に行き来したキャリアも、ジャズギター史では稀有です。
おすすめアルバム
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『The Inner Mounting Flame』(1971年)
マハヴィシュヌ・オーケストラのデビュー作で、1971年8月14日にニューヨークで録音され、同年11月3日にColumbiaから発売されました。メンバーはマクラフリン(g)、ジェリー・グッドマン(vln)、ヤン・ハマー(key)、リック・レアード(b)、ビリー・コブハム(ds)。冒頭「Meeting of the Spirits」の不穏なリフ、「The Noonward Race」でのコブハムとの高速の応酬、一転して静謐なアコースティック曲「A Lotus on Irish Streams」まで、動と静の落差がこのバンドの本質です。ロックの音量とジャズの即興、インド由来のリズムを一体化し、「フュージョンというジャンルの型を定義した1枚」と評されています。
このほかでは、変拍子リフの完成形が聴ける『Birds of Fire』(1973年)、インド古典音楽との融合をアコースティックで実現した歴史的ライヴ盤『Shakti with John McLaughlin』(1976年発売・1975年ライヴ録音)、そしてパコ・デ・ルシア、アル・ディ・メオラとのギタートリオで、入門にも最適な『Friday Night in San Francisco』(1981年)がおすすめです。
使用機材
第1期マハヴィシュヌ期(1971〜73年頃)の代名詞は、6弦+12弦のGibson EDS-1275ダブルネックです。100WのMarshallアンプをほぼフルアップで鳴らしたサウンドは、Guitar Player誌「史上最高のトーン50」に挙げられたとされます。第2期ではRex Bogue製のカスタムダブルネック「Double Rainbow」を使用したほか、GibsonのByrdlandやES-345をスキャロップド指板(指板を削って弦を押さえやすくする加工)に改造して使っていたともいわれます。
シャクティ期には、製作家アブラハム・ウェクターがGibson J-200を基に改造した特注アコースティック、通称「シャクティ・ギター」を使用しました。サウンドホールの上に斜めに張られた共鳴弦を持つ独特の楽器です。後年はGodinのシンセアクセス・モデルやPRSを使い、アンプ類はMesa/Boogieを愛用してきたとされますが、機材は時期による変遷が激しく、細部は資料によって差があります。
影響・評価
ジャズフュージョンの創始者の一人であり、マハヴィシュヌ・オーケストラで「ロックの音圧×ジャズの即興×インドのリズム」という様式を確立しました。ジェフ・ベックは「現存する最高のギタリスト」、パット・メセニーは「世界最高のギタリスト」と公言し、Rolling Stone誌「歴代最高のギタリスト100」でも49位(2003年)に選ばれています。アル・ディ・メオラやマイク・スターンなど影響を受けたギタリストは多数で、速弾き・変拍子・ワールドミュージック融合という現代テクニカルギターの三要素すべての源流とされます。
まとめ
ジョン・マクラフリンは、超高速ピッキングと変拍子をジャズに定着させ、フュージョンというジャンルの骨格をつくったギタリストです。マイルスの電化からインド音楽やフラメンコとの融合、そして2024年のグラミー受賞まで、その歩みはジャズギターの拡張の歴史そのものといえます。まず聴くべきは、やはりマハヴィシュヌ・オーケストラの『The Inner Mounting Flame』(1971年)です。半世紀以上前の録音とは思えない熱量と精度に、きっと驚かされるはずです。



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