マイク・スターン(Mike Stern)は、1953年生まれのアメリカのジャズギタリストです。1981年に復帰直後のマイルス・デイヴィスのバンドに抜擢されて注目を集め、その後はソロ・アーティストとしてグラミー賞に6回ノミネートされるなど、フュージョン〜コンテンポラリー・ジャズの第一線で活躍を続けています。最大の魅力は、ビバップ仕込みのジャズの語彙と、ロック直系の歪んだサウンドを自然に融合させたスタイルです。影響源には、ジミ・ヘンドリックスらロック勢に加え、ジム・ホールやウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェス・モンゴメリーも挙げており、まさに二つの世界を結ぶ存在です。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | マイケル・セジウィック(Michael Sedgwick)。継父の姓「スターン」を名乗る |
| 生没年 | 1953年1月10日生まれ(存命) |
| 出身 | アメリカ・マサチューセッツ州ボストン生まれ、ワシントンD.C.育ち |
| 楽器 | エレクトリック・ギター(テレキャスター・タイプ) |
| 主な活動期 | 1970年代半ば〜現在 |
経歴
バークリーからブラッド・スウェット&ティアーズへ(1953〜1970年代)
1953年にボストンで生まれたスターンは、12歳頃にギターを始めました。最初に夢中になったのはB.B.キング、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックスといったブルース/ロック系のギタリストです。1970年代前半にバークリー音楽大学でジャズを学び、1970年代半ばから約2年間、ブラス・ロックバンドのブラッド・スウェット&ティアーズに在籍。『More Than Ever』(1976年)、『Brand New Day』(1977年)に参加してプロとしての経験を積み、1979年にはドラマーのビリー・コブハムのフュージョン・バンドに参加しています。
マイルス・デイヴィス・バンドへの抜擢(1981〜1985年)
転機は1981年です。長い沈黙から復帰したマイルス・デイヴィスのバンドにギタリストとして抜擢され、『The Man with the Horn』(1981年)、ライヴ盤『We Want Miles』(1982年)、『Star People』(1983年)に参加しました。ロック的な音量と歪みをジャズに持ち込んだプレイは賛否を呼びつつも、スターンの名を世界に知らしめます。1983〜84年にはジャコ・パストリアスのバンド「ワード・オブ・マウス」でツアーを行い、1985年にはマイルスのバンドに一時復帰しました。一方でこの時期は酒とドラッグの問題を抱えており、マイケル・ブレッカーらの支えでリハビリを経て回復しています。
ソロ・アーティストとしての確立(1986〜1990年代)
1983年に日本企画盤『Neesh』で初リーダー作を発表していましたが、本格的なソロ活動の出発点となったのは1986年、アトランティックからの『Upside Downside』です。以後『Time in Place』(1988年)、『Jigsaw』(1989年)と作品を重ね、サックス奏者ボブ・バーグとの双頭バンドでも活動しました。1992年にはブレッカー・ブラザーズの再結成アルバム『Return of the Brecker Brothers』に参加。『Standards (and Other Songs)』の評価により、1993年にはGuitar Player誌のベスト・ジャズ・ギタリストに選ばれています。さらに『Is What It Is』(1994年)、『Between the Lines』(1996年)は相次いでグラミー賞にノミネートされました。
大事故からの復帰、そして現在(2000年代〜)
2000年代以降も『These Times』(2004年)、『Who Let the Cats Out?』(2006年)、『Big Neighborhood』(2009年)などを発表し、2014年にはロック系ギタリストのエリック・ジョンソンとの共演盤『Eclectic』も話題になりました。2016年7月、ニューヨークの路上で工事資材につまずいて転倒し、両腕を骨折。右手に神経障害が残る大けがを負いますが、ピックを指に接着剤で固定する奏法を編み出して復帰します。2017年に復帰作『Trip』を発表し、2024年の最新作『Echoes and Other Songs』まで、現在も第一線で活動を続けています。
音楽的特徴
ジャズの語彙とロックのエネルギーの融合
スターンの最大の特徴は、ビバップ(1940年代に確立した、高度なアドリブを中心とするジャズのスタイル)由来の洗練されたハーモニー感覚と、ロック/ブルース仕込みの歪んだ音色や激しいチョーキング(弦を押し上げて音程を変えるテクニック)の組み合わせです。しばしば「ジム・ホールとジミ・ヘンドリックスの融合」と形容され、本人もヘンドリックス、ウェス・モンゴメリー、ジム・ホール、アルバート・キングらを影響源に挙げています。
一聴でわかるコーラス・サウンド
クリーントーンにコーラス(音を細かく揺らして厚みを出すエフェクト)を深くかけた、揺らぎのある太い音色はスターンの代名詞です。Yamaha SPX-90でステレオに分岐させたこのサウンドは、一聴して彼だと分かるトレードマークになっています。
ホーンライクなロング・フレージング
マイケル・ブレッカーやボブ・バーグといったサックス奏者との共演で磨かれた、8分音符主体で滑らかに歌い続ける長いフレーズも特徴です。管楽器のように息の長いラインをロックの推進力で押し切っていくスタイルは、多くのギタリストの手本になっています。
おすすめアルバム
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『Upside Downside』(1986年)
通算2作目ながら、アトランティックからの実質的なメジャー・デビュー作であり、ソロ・アーティスト「マイク・スターン」の出発点となった1枚です。1986年3〜4月にニューヨークのRPM Sound Studiosで録音され、プロデュースはギタリストとしても著名なハイラム・ブロックが担当。ジャコ・パストリアス(ベース)、デヴィッド・サンボーン(アルトサックス)、ボブ・バーグ(テナーサックス)、デイヴ・ウェックル(ドラム)ら、マイルス〜ジャコ人脈の豪華メンバーが参加しています。全6曲すべてがスターンのオリジナルで、ジャコのベースが躍動する「Mood Swings」、サンボーンのアルトが歌うバラード「Goodbye Again」、疾走するタイトル曲と聴きどころが続き、コーラスの効いたクリーントーンと歪んだロックなソロというスターンの二面性が、この時点ですでに完成しています。
このほかでは、ピーター・アースキンらと録音し作曲家としての成熟が聴ける『Time in Place』(1988年)、スタンダード曲に正面から取り組みGuitar Player誌ベスト・ジャズ・ギタリスト選出のきっかけとなった『Standards (and Other Songs)』(1992年。発表年を1993年とする資料もあります)、両腕骨折の大事故からの復帰作でランディ・ブレッカーやデニス・チェンバースらが参加した『Trip』(2017年)の3枚がおすすめです。
使用機材
スターンといえばテレキャスター・タイプのソリッドギターです。キャリア初期の愛器は1950〜60年代のパーツを組み合わせたFenderテレキャスターでしたが、強盗被害で失われ、その後は製作家(ルシアー)マイケル・アロンソンがそのテレキャスターをもとに製作したカスタム・ギターを長年使用しました。1990年代半ばにヤマハと契約してからの代名詞は、このカスタム機を原型とするシグネチャーモデル「Pacifica 1511MS」で、後年には仕様の異なる「PAC1611MS」も登場しています。
アンプはFender Twin Reverb(’65リイシュー)2台によるステレオ運用が定番です。エフェクターは、コーラスとステレオ分岐の要となるYamaha SPX-90、Boss DD-3デジタル・ディレイ2台などが知られ、歪みには長らくBoss DS-1を愛用。近年のペダルボードにはBoss SD-1やBD-2W(技 WAZA CRAFT)といったオーバードライブも並んでいます。
影響・評価
スターンは、1970年代のフュージョンと現代ジャズを橋渡しする存在として位置づけられています。マイルス・デイヴィス復帰バンドのギタリストとして、ロック的な音量と歪みをジャズの文脈に持ち込んだ象徴的プレイヤーの一人であり、ジョン・スコフィールドやパット・メセニーらと並ぶ同世代の代表的ジャズギタリストに数えられます。グラミー賞ノミネート6回、DownBeat誌「歴代の偉大なギタリスト75人」(2009年)選出、モントリオール・ジャズ・フェスティバルでのマイルス・デイヴィス賞受賞(2007年)といった客観的な評価に加え、ロック畑のギタリストがジャズへ接近する際の入口として機能してきた点も重要です。事故後も奏法を再構築して第一線に立ち続ける姿勢は、内外の音楽誌で高く評価されています。
まとめ
マイク・スターンは、ジャズの知性とロックの熱量を一本のギターで両立させた、フュージョン以降のジャズギターを代表するギタリストです。マイルス・デイヴィスのバンドでの活躍からソロでの数々の名盤、そして事故を乗り越えた近年の活動まで、40年以上にわたり第一線を走り続けています。まず聴くなら、そのスタイルの原点であり完成形でもある『Upside Downside』(1986年)がおすすめです。コーラスの効いたクリーントーンと歪んだソロの対比を、ぜひ体感してみてください。



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