「ソロを弾かない」ことで知られるジャズギタリスト、フレディ・グリーン。カウント・ベイシー楽団に約50年在籍した彼が、単独リーダー名義では生涯でただ一度だけ残したアルバムが、この『Mr. Rhythm』(1955年録音・1956年発売)です。面白いのは、自分の名前を冠したアルバムなのに、グリーンはここでも一切ソロを弾かないこと。全編を通じて「4つ切り」のリズムギターに徹するという、彼の美学がこれ以上なく分かりやすい形で詰まった1枚になっています。
フレディ・グリーンとは?(人物紹介記事)を読んで興味を持った方にも、リズムギターの教材を探しているギタリストにもおすすめの本作。録音の背景から全12曲まで、じっくり解説します。
- アルバム基本情報
- どんなアルバム?
- 参加メンバー
- 全曲解説
- 1. Up in the Blues(Freddie Green作)
- 2. Down for the Double(Freddie Green作)
- 3. Back and Forth(Freddie Green作)
- 4. Free and Easy(Freddie Green作)
- 5. Learnin’ the Blues(Dolores Vicki Silvers作)
- 6. Feed Bag(Freddie Green作)
- 7. Something’s Got to Give
- 8. Easy Does It(Sy Oliver / Trummy Young作)
- 9. Little Red(Freddie Green作)
- 10. Swinging Back(Freddie Green作)
- 11. A Date with Ray(Freddie Green作)
- 12. When You Wish Upon a Star(Leigh Harline / Ned Washington作)
- 聴きどころ
- こんな人におすすめ
- まとめ
- 関連記事
アルバム基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| アーティスト | フレディ・グリーン(Freddie Green) |
| 発売 | 1956年 |
| レーベル | RCA Victor(オリジナル盤カタログ番号 LPM-1210) |
| 録音 | 1955年12月18日、ニューヨーク、ウェブスター・ホール |
| プロデューサー | ジャック・ルイス(Jack Lewis) |
どんなアルバム?
『Mr. Rhythm』は、当時すでに20年近くベイシー楽団の屋台骨を支えていたグリーンが、RCA Victorに録音した小編成セッションです。メンバーは、ジョー・ニューマン、ヘンリー・コーカー、ジョー・ジョーンズといったベイシー楽団の同僚に、当時「ベイシー派」のピアニストとして知られたナット・ピアース、さらにアル・コーン、ミルト・ヒントン、オシー・ジョンソンを加えた顔ぶれ。ベイシー楽団のスウィング感を小編成に凝縮したような座組みです。
全12曲中8曲がグリーンの自作曲で、アレンジはアル・コーン、マニー・アルバム、アーニー・ウィルキンスの3人が分担しました。そして最大の特徴は、先にも触れたとおり、リーダー作でありながらグリーンが一切ソロを取らないこと。ホーン陣とピアノが旋律を担い、グリーンは終始、拍を刻む側に回ります。
なお、本作は「1955年のアルバム」と表記されることもありますが、1955年12月18日は録音日で、発売は翌1956年です。本記事では「1955年録音・1956年発売」としています。
評価面では、AllMusicのロニー・D・ランクフォードJr.が5点満点中3点を付け、「リズムギタリストという役割に徹して満足する優れたリーダーの姿を示す1枚で、スウィングする良質なジャズが好きな人に薦められる」という趣旨で好意的に紹介しています。
参加メンバー
- フレディ・グリーン(ギター)…本作のリーダー。全編でソロを取らず、アンプを使わないアーチトップギターの4つ切りに徹します。
- ジョー・ニューマン(トランペット)…ベイシー楽団の同僚。
- アル・コーン(テナーサックス、バスクラリネット)…アレンジャーの一人でもあります。※持ち替え楽器をクラリネットとする資料もあります。
- ヘンリー・コーカー(トロンボーン)…こちらもベイシー楽団の同僚。
- ナット・ピアース(ピアノ)…ベイシー・スタイルを受け継ぐピアニスト。
- ミルト・ヒントン(ベース)…膨大な録音に参加した当時屈指の名ベーシスト。
- ジョー・ジョーンズ(ドラム)…「オール・アメリカン・リズム・セクション」以来のグリーンの盟友。
- オシー・ジョンソン(ドラム)…トラック1、3、6、9で参加。
ドラマーが2人クレジットされているのが目を引きます。主要資料は録音日を1955年12月18日の1日としていますが、同日内の別セッションだったのか複数日に分かれていたのかは、セッション資料での確認が取れていません。いずれにせよ、2人の名手のドラムを聴き比べられるのは本作の楽しみの一つです。
全曲解説
全12曲。グリーンの自作曲8曲に、スタンダードや歌ものを織り交ぜた構成です。どの曲でも「主役のギターソロ」は登場しませんが、その分、ホーンとリズム隊のスウィングを純度高く味わえます。
1. Up in the Blues(Freddie Green作)
アルバムの幕開けを飾る自作ナンバー。ドラムはオシー・ジョンソンです。冒頭から、アンプを通さないアーチトップの「ザッ、ザッ」という刻みがアンサンブルの土台に据わっており、本作の聴き方を最初の1曲で教えてくれます。
2. Down for the Double(Freddie Green作)
グリーンが1941年に作曲し、ベイシー楽団のレパートリーとしても知られる「Down for Double」を、自身のリーダー・セッションであらためて取り上げたナンバー。作曲家グリーンの代表作の一つです。
3. Back and Forth(Freddie Green作)
タイトルどおり、ホーン陣とリズム隊の「行き来」が楽しい自作曲。ここでもドラムはオシー・ジョンソンが担当しています。
4. Free and Easy(Freddie Green作)
肩の力の抜けたタイトルを持つ自作曲。ジョー・ジョーンズの軽やかなドラムとグリーンの刻みという、ベイシー楽団以来の名コンビの呼吸を味わえます。
5. Learnin’ the Blues(Dolores Vicki Silvers作)
ドロレス・ヴィッキー・シルヴァース作の歌もので、本作では数少ない他人の曲の一つ。歌心のあるメロディをホーン陣が担い、グリーンは一歩引いてスウィングを支えます。
6. Feed Bag(Freddie Green作)
オシー・ジョンソンがドラムを務める自作曲。小編成ながら、リフを積み重ねていくベイシー楽団ゆずりの味わいがあります。
7. Something’s Got to Give
この曲の作曲者は資料によって食い違いがあり、グリーンのオリジナルとするものと、ジョニー・マーサー作の1955年のヒット曲「Something’s Gotta Give」とするものがあります。ここでは断定を避けておきますが、演奏そのものはアルバムの流れに自然に溶け込むスウィング・ナンバーです。
8. Easy Does It(Sy Oliver / Trummy Young作)
サイ・オリヴァーとトラミー・ヤングによるスウィング時代のナンバー。ビッグバンド全盛期を生きたグリーンらしい選曲と言えるでしょう。
9. Little Red(Freddie Green作)
オシー・ジョンソン参加トラックの最後を飾る自作曲。コンパクトな編成でのアンサンブルの妙が光ります。
10. Swinging Back(Freddie Green作)
タイトルに「スウィング」を掲げた自作曲。拍ごとに細かくコードを動かすグリーンのボイスリーディングを意識しながら聴くと、刻みの中の変化に気づけるはずです。
11. A Date with Ray(Freddie Green作)
自作曲群の締めくくり。ミルト・ヒントンのベースとギターの4つ切りが一体になって歩く、リズム隊好きにはたまらないトラックです。
12. When You Wish Upon a Star(Leigh Harline / Ned Washington作)
クローザーは、ディズニー映画『ピノキオ』の主題歌として知られる「星に願いを」。ブルースやリフ曲が中心のアルバムの最後に置かれた、少し意外でチャーミングな選曲です。
聴きどころ
本作最大の聴きどころは、やはり「ソロを弾かないリーダー作」という一点に尽きます。チャーリー・クリスチャン以降、ジャズギターは「ソロを弾く楽器」として進化してきましたが、グリーンはその流れと正反対の場所で自分の役割を極めました。普段はソロイストを目で追ってしまう人も、本作ではぜひ「土台」に耳を向けてみてください。実質1~3音のコードを拍ごとに動かしながら、ドラムと一体になって鳴るギターの音が聴き取れてくると、アルバムの景色が一変します。
もう一つの楽しみが、ジョー・ジョーンズとオシー・ジョンソンという2人のドラマーの聴き比べです。トラック1、3、6、9がジョンソン、それ以外がジョーンズ。同じ「グリーンの刻み」の上で、ドラムが変わるとスウィングの手触りがどう変わるかを聴き分けるのは、リズム好きにとって格好の題材です。
こんな人におすすめ
- ビッグバンドでギターを弾く人、フレディ・グリーン・スタイルを学びたい人…本人のリーダー作で、しかも小編成。刻みの音がもっとも聴き取りやすい教材です。
- コンピングやタイム感を鍛えたいギタリスト…ソロの語彙ではなく「バンドを進める技術」を学べます。
- 『April in Paris』『The Atomic Mr. Basie』などベイシー楽団の名盤が好きな人…あのリズムの感触を小編成で味わえる1枚です。
- ソロ中心の聴き方に少し疲れた人…ジョー・パス『Virtuoso』がソロギターの極致なら、本作は伴奏ギターの極致。対極の2枚を聴き比べるのも一興です。
まとめ
『Mr. Rhythm』は、リズムギターの巨匠フレディ・グリーンが、自分の名前を冠したアルバムでもなお「刻む側」に徹した、ジャズ史でも類例の少ない1枚です。派手さはありませんが、スウィングというものの土台がどう作られているかを、これほど分かりやすく聴かせてくれる作品はなかなかありません。
本作を気に入った方には、20年後の1975年にハーブ・エリスと共作した双頭ギター作『Rhythm Willie』もおすすめ。ソロの名手との共演でも変わらず刻み続けるグリーンの姿に、あらためて感心させられるはずです。まずは『Mr. Rhythm』で、4分音符だけで音楽を動かす技をじっくり味わってみてください。
関連記事
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- ハーブ・エリス(人物紹介記事)…晩年の共演盤『Rhythm Willie』の相方となったギタリストです。
- チャーリー・クリスチャン(人物紹介記事)…グリーンと同時代に「ソロを弾くギター」の道を開いた巨匠です。
- ジョー・パス『Virtuoso』徹底解説(アルバム紹介記事)…本作と対極にある、ソロギターの金字塔です。



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