ジャズギターの歴史をたどると、ウェス・モンゴメリーのような”過去の巨匠”に行き着きます。では、いま現在のジャズギターを最前線で更新し続けている人物は誰か——その筆頭に挙がるのが、カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)です。
声とギターが溶け合った唯一無二のサウンド、ピアノのように響く豊かな和声、流れるようなフレーズ。彼は1990年代のニューヨークから登場し、ブラッド・メルドーやマーク・ターナーらと共に”新世代ジャズ”を築いた中心人物です。この記事では、そんなカート・ローゼンウィンケルの経歴・音楽的特徴・おすすめアルバム・使用機材まで、初めて名前を聞く方にもわかりやすく紹介します。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル) |
| 生年 | 1970年10月28日 |
| 出身 | アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィア |
| 楽器 | ギター(ほかにピアノ・シンセも演奏) |
| 現在の拠点 | ドイツ・ベルリン |
| 主な活動期 | 1990年代〜現在 |
フィラデルフィアの音楽一家に生まれ、9歳でピアノ、12歳でジャズギターを始めました。現在はベルリンを拠点に、演奏・作曲・レーベル運営まで幅広く活動しています。
経歴
生い立ちとバークリー中退
カートはフィラデルフィアの芸術高校で学び、後にベーシストのクリスチャン・マクブライドらと同窓だったと言われます。その後ボストンの名門バークリー音楽大学に進みますが、約2年半在籍したのち中退。理由は、当時バークリーの学部長だったヴィブラフォン奏者ゲイリー・バートンのツアーに参加するためでした(1991年頃)。学業よりも”現場”を選んだわけです。
ニューヨーク/ブルックリンでの台頭
バートンはカートを引き上げた恩人で、ニューヨーク移住の後押しもしたとされます。ブルックリンに移った彼は、ポール・モチアンのバンドやブライアン・ブレイドのグループなどで頭角を現します。1995年には全米芸術基金(NEA)から作曲賞を受け、名門ヴァーヴ・レコードと契約しました。
この時期、グリニッチ・ヴィレッジの伝説的クラブ「Smalls」を実験の場として、ピアノのブラッド・メルドー、サックスのマーク・ターナーらと共に、1990年代の新世代ジャズを形づくっていきます。
リーダー作で評価を確立、そしてベルリンへ
2000年代に入ると、『The Next Step』『Heartcore』『Deep Song』といったリーダー作で「新世代ジャズギターの旗手」としての地位を確立。特に『Heartcore』(2003)は、ヒップホップの大物Q-Tip(A Tribe Called Quest)がプロデュースに関わった異色作として知られます。
その後ベルリンに拠点を移し、同地のハンス・アイスラー音楽大学(ベルリン芸術大学との共同機関 Jazz-Institut Berlin)で教授として後進を指導した時期もありました(在任はおよそ2007〜2016年)。2016年には自身のレーベルHeartcore Recordsを設立。制作・発表の場を自らの手に握り、いまも旺盛に活動を続けています。
音楽的特徴
“あのサウンド”の正体——ギターに重なる「声」
初期のカート最大の個性は、ソロのメロディを自分の声でなぞり(ワードレス・ヴォーカル)、その声を小型マイク経由でギターアンプに送り込むという独特の手法です。これにより、声とギターが分かちがたく溶け合い、「歌っているようで、シンセのパッドのようでもある」幻想的な音色が生まれます。「なぜギターなのに声やシンセに聞こえるの?」——その答えがこれです。
アタックを抑え、サステインを伸ばす
近年の音色は「アンビエントで温かく、どこか別世界的」と評されます。EHXのPOG2(後述)によりアタック(音の立ち上がり)を柔らかく抑え、高音域をやや削り、左手を多用してピッキングの回数を減らす——こうした工夫で、音が滑らかに連なる流麗なフレーズが生まれます。ディレイをペダルで操りながら多層的な響きを作るのも特徴です。
ギターを”ピアノのように”
豊かなテンションを含むモダンな和声を、まるでピアニストのように扱うのも彼の真骨頂。コルトレーンやキース・ジャレット、デヴィッド・ボウイまで——ギタリスト以外からの吸収が大きいことが、その独自性を支えています。ジャズの伝統とエレクトロニクスを融合させ、ジャズギターの”音そのもの”を更新した点が、彼が「現代ジャズギターの革新者」と呼ばれるゆえんです。
おすすめアルバム
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ローゼンウィンケル入門の決定盤が、カルテットによる『The Next Step』(2001)です。彼の名を世に知らしめた出世作で、「まず1枚」ならこれ。リーダーアルバムはどれもおすすめなので、『The Next Step』が気に入ったらぜひ色々なアルバムを聴き進めてみてください。
『The Next Step』(2001年)
リーダーとして創作の大きな飛躍を示した代表作。バークリー時代の盟友マーク・ターナー(サックス)、ベン・ストリート(ベース)、ジェフ・バラード(ドラム)とのカルテットで、全曲オリジナル。後にライブの定番となる楽曲を多数生み出した、ローゼンウィンケル入門の決定盤です。流麗なライン、声と溶け合うトーン、込み入った和声——彼の魅力がひとつにまとまった一枚です。
使用機材
ローゼンウィンケルの音色は、機材セッティングの妙にも支えられています。近年のセットアップを中心に、要点を紹介します。
- ギター:ウェストヴィル(Westville)・ディアンジェリコ(D’Angelico)・モッファ(Moffa)・サドウスキー(Sadowsky) etc.… カートはギターを頻繫に持ち替えるタイプのギタリストです。ギブソン(Gibson)ES-335やヤマハ(Yamaha)SG、近年のライブ映像ではロブ・オライリー(Rob O’Reilly)のMIDI PROというMIDIギターを使用していることが確認できます。
- マルチプロセッサー:フラクタル(Fractal)FM-9 ・ライン6(Line 6)Helix Stadium… 近年カートはフラクタル(Fractal)FM-9の使用で有名でしたが、2026年4月の来日公演を見に行った際に、ライン6(Line 6)Helix Stadiumを使用していることが確認できました。後述のPOG2でアタックを削った音にコンプレッサーをかけ、ディレイやリバーブを深めにかけるセッティングです。
- EHX POG2 … “あのヴァイオリン的な音”の要。アタック(音の立ち上がり)を削り、音の質感を作り込みます。
- 歪み:プロコ RAT(80年代製) … カートは長年RATを愛用しています。クリーントーンとのパラレルミックスで単音のパワーとクリーンな和音を両立しています。
- 無言ヴォーカルのアンプ送り … 声をマイクでギターアンプに送り、ギターと溶け合わせる——音色の核となる発想です。
派手な型番よりも、「Westville + Fractal + POG2 + 声のアンプ送り」という組み立て方こそが、あの音の秘密です。
影響・評価
カートは「自分の世代における最重要のジャズギターの声」とも評され、その和声感・フレージング・音色処理は、ギラッド・ヘクセルマンやラージ・ルンドといった現代の奏者たちにも通じる”共通言語”になっています。1990年代のニューヨークから新世代ジャズを切りひらき、アコースティックな即興とエレクトロニクスを橋渡しした——その功績は、ポスト・メセニー/ポスト・スコフィールド世代を代表するものとして記憶されています。
まとめ
カート・ローゼンウィンケルは、声とギターを溶け合わせた独自のサウンドと、ピアノのように豊かな和声で、ジャズギターの可能性を更新し続ける”現代の革新者”です。まずは代表作『The Next Step』から——ぜひ、いま進行形のジャズギターに触れてみてください。
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