ラリー・カールトン(Larry Carlton)『Larry Carlton(夜の彷徨)』徹底解説|自宅スタジオ「Room 335」から生まれたフュージョン・ギターの金字塔

ラリー・カールトン 夜の彷徨 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

1978年発表の『Larry Carlton』、邦題『夜の彷徨(よるのさまよい)』は、LAスタジオ・シーンの頂点にいたギタリスト、ラリー・カールトンが自宅スタジオで作り上げた一枚です。冒頭を飾る「Room 335」は、いまやフュージョン・ギター(ジャズにロックやソウルの要素を融合したジャンル)のスタンダードとして世界中で弾き継がれる大名曲。ギブソンES-335の甘く歌うトーンと自宅録音ならではのリラックスした空気は、ジャズギター好きなら一度は通っておきたい「名作中の名作」です。

本作は、カールトンがザ・クルセイダーズを離れ、ソロ・アーティストとして本格的に歩み始めた出発点でもあります。セッション・ギタリスト(レコーディングに招かれて演奏する職業ミュージシャン)としての彼の歩みはラリー・カールトンとは?(人物紹介記事)で詳しく紹介していますので、あわせてお読みください。この記事では、アルバム『夜の彷徨』そのものの魅力を、制作背景から全曲解説までじっくり掘り下げていきます。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1978年
レーベル ワーナー・ブラザース(Warner Bros. Records/オリジナルUS盤LP: BSK 3221)
録音日 1977〜78年とされる(正確な録音日は不詳)
録音場所 Room 335(ハリウッドのカールトン自宅スタジオ)※ストリングスのみWestern Recordersで録音
プロデューサー ラリー・カールトン(セルフプロデュース)

編成はギター、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッションのクインテット(5人編成)を基本に、曲によってストリングスとコーラスが彩りを添えるスタイルです。

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どんなアルバム?

ラリー・カールトンは1971年から1976年までザ・クルセイダーズ(ジャズ・ファンクの人気グループ)のメンバーとして活動しながら、スティーリー・ダン「Kid Charlemagne」の名ソロに代表される売れっ子セッション・ギタリストとして、70年代には年間数百セッションをこなしたともいわれます。1976年にクルセイダーズを脱退した彼がワーナー・ブラザースと契約して発表したのが本作です。1968年と1973年の作品に次ぐ通算3枚目のソロ・アルバムにあたりますが、ワーナー移籍後第1作にして、彼の名を世界に知らしめた実質的なソロ・ブレイク作となりました。

本作を語るうえで欠かせないのが、録音場所である自宅スタジオ「Room 335」です。この名前は、カールトンが60年代末に手に入れて以来愛用するギブソンES-335(セミアコースティック・ギターの名器)に由来し、彼の愛称「Mr. 335」もここから定着しました。アルバムはこのRoom 335で、プロデュースからエンジニアリング、ミックスまでカールトン自身の手で仕上げられています。他人の音楽を支え続けたセッションマンが、自分の城で自分の音を作り上げた——その背景を知ると、本作ののびのびとした空気にも納得がいきます。

代表曲「Room 335」のコード進行について、カールトン本人は「自分が参加したスティーリー・ダンの『Peg』の冒頭4つのコードがもとになっている。ただしブリッジ(中間部)は『Peg』に似ないよう変えた」と語っています。また「Nite Crawler」はクルセイダーズの1977年作『Free As The Wind(旋風に舞う)』で発表した自作曲のセルフ・リメイクで、邦題『夜の彷徨』はこの曲のイメージに由来するともいわれています。セッションとバンドの現場で培ったすべてが、この一枚に流れ込んでいるのです。

特筆すべきは日本での人気です。本国アメリカではBillboard 200で最高174位(ジャズ・アルバム・チャートでは最高12位)でしたが、日本ではオリコンLPチャートで最高46位、トップ100内に16週ランクインと、本国以上の支持を集めました。70年代後半の日本のフュージョン・ブームを象徴する一枚であり、ワーナーミュージック・ジャパン公式も「日本に大ブームを巻き起こしたフュージョン・ギター名作中の名作」と紹介しています。

参加メンバー

参加しているのは、いずれも当時のLAスタジオ・シーン最高峰のセッション・ミュージシャンばかりです。人数を絞ったぶんひとりひとりの音がよく見え、名手たちの会話のようなアンサンブルをじっくり味わえます。

  • ラリー・カールトン(ギター、リード・ボーカル) … 本作の主役。ギターだけでなく2曲でリード・ボーカルもとり、プロデュースとエンジニアリングまで手がけています
  • グレッグ・マティソン(キーボード) … カールトンを支えるLAセッション界の実力派鍵盤奏者
  • エイブラハム・ラボリエル(ベース) … この後LAセッション界のファースト・コール(指名第一候補)ベーシストへと駆け上がる名手
  • ジェフ・ポーカロ(ドラムス) … TOTO結成(デビューは本作と同じ1978年)前後の時期にあたる、伝説的グルーヴ・マスター
  • パウリーニョ・ダ・コスタ(パーカッション) … ブラジル出身の名パーカッショニスト。「Rio Samba」などで存在感を発揮します
  • ウィリアム・“スミッティ”・スミス(バッキング・ボーカル、コーラス・アレンジ) … 本作のボーカル曲2曲の共作者でもある重要人物
  • ジェラルド・ヴィンチ(コンサートマスター) … ストリングス・セクションを率いるリーダー役

全曲解説

オリジナルLP収録の全8曲を、曲順どおりに紹介します。

1. Room 335(作曲:ラリー・カールトン)

カールトン最大の代表曲にして、本作の代名詞。メジャー7thコード(明るく浮遊感のある響き)を基調とした爽やかな進行の上を、ES-335のウォームなトーンが歌うように駆け抜けます。イントロからテーマ、ソロに至るまで「当時のギター小僧の多くがコピーした」と語り草になっており、現在ではフュージョン・ギターの必修レパートリー。次曲とのカップリングでシングル・カットもされました。

2. Where Did You Come From(作曲:ウィリアム・“スミッティ”・スミス/エリック・マーキュリー)

邦題「彼女はミステリー」。カールトン自身がリード・ボーカルをとる、メロウなAOR(大人向けの洗練されたポップス)/ソウル調の歌ものです。ギタリストのアルバムとしては異色のボーカル曲ですが、当時のLAサウンドらしい洗練された仕上がりで、アルバムの流れに心地よい変化をつけています。

3. Nite Crawler(作曲:ラリー・カールトン)

邦題「ナイト・クロウラー」。クルセイダーズの1977年のアルバム『Free As The Wind(邦題:旋風に舞う)』で発表された自作曲のセルフ・リメイクです。ミディアム・テンポの粘るファンク・グルーヴの上で、レイドバックした(力の抜けた、後ノリの)ギターがじっくりと歌う、夜の空気をまとった一曲です。

4. Point It Up(作曲:ラリー・カールトン)

アップテンポでアグレッシブなファンク・フュージョン。バンドの一体感と、普段はメロウな印象の強いカールトンの攻めたソロが際立つ、A面の締めにふさわしい熱演です。

5. Rio Samba(作曲:ラリー・カールトン)

邦題「リオのサンバ」。ラテン/サンバ・フレイバーの長尺曲で、AllMusicのレビュー(ジェイソン・イーライアス)では「アルバムのベスト・トラック」に挙げられています。ジェフ・ポーカロのドラミングとパウリーニョ・ダ・コスタのパーカッションの絡みは、リズム好きにはたまらない聴きどころです。

6. I Apologize(作曲:ウィリアム・“スミッティ”・スミス/エリック・マーキュリー)

邦題「恋のあやまち」。カールトンが歌うもう1曲のボーカル・ナンバーで、こちらはソウルフルなバラード調です。歌声と、その合間を縫うギターのオブリガート(歌に寄り添う伴奏フレーズ)の両方を味わえます。

7. Don’t Give It Up(作曲:ラリー・カールトン)

邦題「希望の光」。大きなスケールでじっくりと聴かせる曲です。ゴスペル/ソウル的な高揚感を持つとされ、タイトルどおり終盤に向けてアルバムの温度を静かに上げていきます。

8. (It Was) Only Yesterday(作曲:ラリー・カールトン)

邦題「昨日の夢」。アルバムをしっとりと締めくくるメロウなクローザーです。夜更けの余韻のような穏やかなムードは、『夜の彷徨』というタイトルの結びにふさわしい一曲といえるでしょう。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

本作最大の魅力は、「歌うギター」というカールトンの美学が、自宅スタジオの親密な空気の中で結晶している点です。テクニックをひけらかすのではなく、一音一音のトーンとフレーズの歌い回しで聴かせる。この姿勢は「Room 335」のソロに凝縮されており、「ES-335=メロウ・フュージョン」というイメージを決定づけた点で、ジャズギター史・機材史の両面から見ても重要な一枚です。

もうひとつの魅力は、スモール・コンボの生っぽいグルーヴです。ラボリエル、ポーカロ、ダ・コスタという鉄壁のリズム隊が生むしなやかなうねりと、自宅スタジオならではのリラックスした空気が同居した、今聴いても古さを感じさせない洗練されたサウンド。AllMusicも5点満点中4点と高く評価しました。

そして本作は、カールトンのソロ・キャリアの出発点でもあります。この成功を足がかりに彼はワーナーで『Strikes Twice』『Sleepwalk』『Friends』と快進撃を続け、1981年にマイク・ポストと録音した全米トップ10ヒット「ヒル・ストリート・ブルースのテーマ」では、翌1982年にグラミー賞(最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス)を受賞。2025年にはワーナー期を集成した3CDボックス『The Warner Brothers Anthology』が登場するなど、再評価はいまなお続いています。すべてはこの一枚から始まったのです。

こんな人におすすめ

  • フュージョン・ギターの入門盤を探している人 … 全8曲・約41分とコンパクトで、メロウからファンクまでバランスよく味わえる構成だからです
  • ES-335やセミアコのトーンが好きなギタリスト … 「Mr. 335」の原点となった、セミアコの歌わせ方の教科書のような演奏が詰まっています
  • スティーリー・ダンや70年代LAサウンドのファン … 「Peg」由来のコード進行を持つ「Room 335」をはじめ、あの時代のLAの空気をたっぷり楽しめます
  • 夜にゆったり聴ける大人のインスト作品を探している人 … 邦題『夜の彷徨』のとおり、夜更けのリスニングにぴったりの温度感です

まとめ

『Larry Carlton(夜の彷徨)』は、ラリー・カールトンが自宅スタジオ「Room 335」で自らの音楽を存分に鳴らした、ソロ・キャリアの実質的な出発点です。愛器ES-335に由来するスタジオ名、スティーリー・ダン「Peg」から生まれた代表曲——エピソードのひとつひとつが、名脇役から「Mr. 335」へと羽ばたく瞬間を物語っています。

派手さではなく、トーンと歌心で勝負する。その美学は現在のジャズギターにも脈々と受け継がれています。まだ聴いたことのない方は、ぜひ夜の時間帯に「Room 335」から再生してみてください。本国以上に日本で愛されてきたこの名盤の魅力は、きっと一聴で伝わるはずです。

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