1998年にVerveから発表された『A Go Go(ア・ゴー・ゴー)』は、ジョン・スコフィールドのディスコグラフィーの中でも特に人気の高い一枚です。共演相手は、当時ジャム・バンド・シーン(即興演奏を軸に長尺のライブを繰り広げるバンド群のシーン)で人気急上昇中だったトリオ、Medeski Martin & Wood(メデスキ・マーティン&ウッド、以下MMW)。ざらついたトーンのギターと渦を巻くオルガンが生み出す「グリージー(脂っこい)」なグルーヴが全編を貫いていて、ジャズ・ファンクの名盤を1枚だけ挙げるなら本作、という人も少なくありません。
ひねりの効いたフレージングと独特のトーンで知られるスコフィールドの経歴や代表作については、ジョン・スコフィールドとは?(人物紹介記事)で詳しく紹介しています。この記事では『A Go Go』という作品そのものに焦点を当て、制作背景から全曲解説まで、じっくり掘り下げていきます。
アルバム基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発売 | 1998年4月7日 |
| レーベル | Verve Records(ヴァーヴ) |
| 録音日 | 1997年10月30日〜11月1日(日本盤クレジットによる) |
| 録音場所 | Avatar Studios(アヴァター・スタジオ、ニューヨーク) |
| プロデューサー | Lee Townsend(リー・タウンゼンド) |
編成は、スコフィールドのギターにMMWの3人(キーボード、ベース、ドラムス)を加えたカルテット(4人組)です。
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どんなアルバム?
『A Go Go』の面白さを知るには、まず前作を知っておくのが近道です。1996年の『Quiet』は、アコースティック・ギターを主体にした静かな作品でした。そこから一転、本作ではエフェクトを効かせたエレクトリック・ギターを前面に出し、ジャズ・ファンク/ソウル・ジャズ路線へと大きく舵を切ります。この振れ幅の大きさこそ、スコフィールドというギタリストの懐の深さです。
共演相手のMMWは、鍵盤のジョン・メデスキ、ベースのクリス・ウッド、ドラムスのビリー・マーティンによるトリオ。スコフィールドから見れば「下の世代」にあたるバンドです。スコフィールドは彼らの作品を聴いてその演奏力とグルーヴを気に入り、自ら声をかけて共演が実現したとされています。キャリアで大きく先輩にあたるスコフィールドが全曲の作曲と音楽的リードを担い、MMWが自分たちの流儀でグルーヴを注ぎ込む——この役割分担が見事にはまりました。
録音は1997年10月30日から11月1日(日本盤クレジットによる)、ニューヨークのアヴァター・スタジオで、わずか3日間ほどで行われました。プロデュースは『Quiet』などでも組んだリー・タウンゼンド、録音とミックスはジョー・フェルラ。短期集中のセッションだけに、バンドの鮮度がそのまま封じ込められたようなライブ感が全編に漂います。
日本盤の解説でも、本作はグルーヴィーなサウンドでジャム・バンド・ブームの先駆けとなった重要作と位置づけられています。1990年代後半にジャズとジャム・バンド・シーンが接近していく、その流れを象徴する一枚でもあるのです。
参加メンバー
本作はスコフィールドとMMWによるカルテット編成です。MMWはオルガン・トリオ(オルガン+ベース+ドラムスの編成)を現代的に更新したようなバンドで、4人それぞれの音色の個性がアルバムの味を決めています。
- ジョン・スコフィールド(エレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、ホイッスル) … 本作のリーダーで、オリジナル盤全10曲の作曲者。ここでは普段より一段とざらついた、ファンキーなトーンを聴かせます。
- ジョン・メデスキ(オルガン、アコースティック・ピアノ、ウーリッツァー、クラヴィネット) … MMWの鍵盤奏者。ウーリッツァー(電気ピアノの一種)や、ファンクでおなじみの打楽器的な音を出す電気鍵盤クラヴィネットを弾き分け、アルバムの色彩を一手に担います。
- クリス・ウッド(アコースティック・ベース、エレクトリック・ベース) … MMWのベーシスト。硬質な音色でバンドの土台をがっちり支えます。
- ビリー・マーティン(ドラムス、タンバリン) … MMWのドラマー。ルーズに跳ねる独特のビートが、本作の「脂っこさ」の源です。
全曲解説
オリジナル盤の全10曲は、すべてジョン・スコフィールドのオリジナル曲です。
1. A Go Go(作曲:ジョン・スコフィールド)
ミドルテンポ・マイナー調のタイトル曲です。今ではジャズ・ファンクの代表曲のひとつに数えられる存在で、ギターとオルガンの絡みからバンドの化学反応が一発で伝わる、アルバムの入口として申し分ない1曲です。
2. Chank(作曲:ジョン・スコフィールド)
ジェームス・ブラウンのバンドで活躍したギタリスト、ジミー・ノーレンに捧げられたファンク・ナンバー。曲名はノーレンの愛称「チャンク」に由来するとされ、その名の通りノーレン直系のスクラッチーなカッティング(コードを歯切れよく刻む奏法)が主役です。本作の方向性を象徴する曲として、レビューでも頻繁に言及されます。
3. Boozer(作曲:ジョン・スコフィールド)
アコースティック・ギターも交えた、ゆったりとしたグルーヴの曲。前のめりなファンクの合間に、ふっと肩の力が抜けるような時間が流れます。
4. Southern Pacific(作曲:ジョン・スコフィールド)
イージーなグルーヴの上で、スコフィールドの「味のある」即興が楽しめる曲。派手さよりもニュアンスで聴かせる、歌うようなフレージングにじっくり耳を傾けたいナンバーです。
5. Jeep on 35(作曲:ジョン・スコフィールド)
軽やかなドライブ感が心地よいナンバー。肩の力の抜けたグルーヴはファンク一辺倒ではない本作の幅を感じさせてくれます。本作の「おいしいところ」をまず味わいたい人は、ここから聴いてみるのもおすすめです。
6. Kubrick(作曲:ジョン・スコフィールド)
2分あまりの短い実験的な小品。どこか映画のワンシーンを思わせる雰囲気があり、ファンク一辺倒にならないアルバムの流れに、不思議な陰影を与えています。
7. Green Tea(作曲:ジョン・スコフィールド)
メロディアスなミドル・ナンバー。ファンク色の強い曲の間にあって、スコフィールドの書くメロディの魅力をじっくり味わえる1曲です。
8. Hottentot(作曲:ジョン・スコフィールド)
オルガンが渦巻くファンク・チューンで、バンド全体の白熱したやり取りが聴きどころ。後年、ジャズ・ファンク系セッションの定番曲になったとされる、本作屈指の人気曲です。
9. Chicken Dog(作曲:ジョン・スコフィールド)
泥臭いニューオーリンズ風味のグルーヴ・ナンバー。ファンクのルーツのひとつであるニューオーリンズの空気を、バンドがたっぷり吸い込んで鳴らしています。
10. Deadzy(作曲:ジョン・スコフィールド)
3分弱で静かに幕を閉じるクローザー。熱いグルーヴの余韻を、そっと冷ましてくれるような幕引きです。
なお、日本盤『A GO GO +2』(2016年発売のSHM-CDほか)には、本セッションのアウトテイクとされる「Like It or Not」「Hope Springs Eternal」の2曲がボーナストラックとして追加収録されています。
聴きどころ・なぜ名盤なのか
まず特筆すべきは、スコフィールドとMMWの相性の良さです。本作でのスコフィールドのギターは普段より歪みの強い、ざらついたトーンで、メデスキのオルガンやクラヴィネット、マーティンのルーズなドラム、ウッドの硬質なベースと絡み合います。JazzTimes誌のレビューでは、ジム・ホールとビル・エヴァンス、あるいはジミー・ノーレンとジェームス・ブラウンといった名コンビになぞらえて、天が結び付けたような組み合わせだと絶賛されました。難しいことを考えずに体で楽しめるのに、聴き込むほど即興のやり取りがスリリングに響いてくる——この二層構造が本作の強みです。
評価も上々で、AllMusicが5点満点中4点、All About Jazzが4.5点、The Penguin Guide to Jazz Recordingsが4点満点中3.5点と、主要メディアが軒並み高い点を付けています。セールス面でも、1998年4月25日付のBillboard「Top Jazz Albums」チャートで2位を記録しています。
そして本作の価値は、その後の影響の大きさにもあります。ここで確立したグルーヴ/ファンク路線は『Bump』(2000年)や『Überjam』(2002年)へと発展し、MMWとの共演もその後継続。2006年には対等なバンド名義「Medeski Scofield Martin & Wood(MSMW)」でアルバム『Out Louder』を発表します。「A Go Go」「Hottentot」「Chank」といった本作の曲はMSMWのライブでもたびたび演奏され、特に「Hottentot」「Chank」はジャズ・ファンク系セッションの定番曲として定着したとされています。一枚のアルバムから複数のセッション定番曲が生まれた——これこそ名盤の証ではないでしょうか。
こんな人におすすめ
- ジャズ・ファンクの入門盤を探している人 … 難解さがなく、リズムに身を任せるだけで楽しめます。「ジャズは敷居が高い」と感じている人にこそ聴いてほしい一枚です。
- セッションに参加したいジャズギター学習者 … 「Hottentot」「Chank」はセッション定番曲として知られており、原曲を知っておくと実戦でそのまま役立ちます。カッティングやファンクのフレージングの教材にもなります。
- MMWやジャム・バンド系の音楽が好きな人 … MMWのグルーヴが、スコフィールドの曲というフレームの中にぎゅっと凝縮されています。彼らの入り口としても最適です。
- スコフィールドの他作品を聴いてきた人 … 『Quiet』からの大胆な振れ幅、『Bump』『Überjam』への流れを踏まえると、キャリアの転換点として一層楽しめます。
まとめ
『A Go Go』は、アコースティック作『Quiet』から一転してジャズ・ファンクへ舵を切ったスコフィールドが、世代の異なるトリオMMWと出会って生み出した化学反応の記録です。全曲がスコフィールドのオリジナルでありながら、若い3人のグルーヴが遠慮なく前へ出る——ベテランと新世代の理想的な関係が、3日間ほどの集中セッションに焼き付けられています。
ジャズ・ファンクの入り口として、セッション定番曲の予習として、あるいは純粋に心地よいグルーヴ・ミュージックとして。どの角度から聴いても応えてくれる懐の深さが、このアルバムには詰まっています。まずはタイトル曲「A Go Go」と「Hottentot」から、あの脂っこいグルーヴに浸ってみてください。
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