ジャズギターの巨匠ウェス・モンゴメリーの数ある名盤の中でも、「最高傑作」としてとりわけ熱く語られるのが、1965年の『Smokin’ at the Half Note』です。あのパット・メセニーが「自分が聴いた中で最高のギター・ソロ」と讃え、「ギターの弾き方を教わった一枚」とまで言い切った——そんな逸話を持つアルバムです。
ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)を読んでウェスに興味を持った方に、ぜひ味わってほしい一枚。この記事では、知られざる録音の舞台裏から全曲の聴きどころ、メセニーの評価まで、たっぷり掘り下げていきます。
アルバム基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発売 | 1965年11月 |
| レーベル | Verve Records(ヴァーヴ) |
| 名義 | The Wynton Kelly Trio with Wes Montgomery |
| 録音 | 1965年6月(ライブ:NYのHalf Note)/1965年9月22日(スタジオ:Van Gelder Studio) |
| プロデューサー | Creed Taylor(クリード・テイラー) |
| 録音エンジニア | Rudy Van Gelder(ルディ・ヴァン・ゲルダー) |
ジャケットの正式名義は「ウィントン・ケリー・トリオ with ウェス・モンゴメリー」。一般には“ウェスのアルバム”として語られますが、厳密にはトリオが主役でウェスがゲスト、という建て付けです。
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どんなアルバム?
このアルバムを語るうえで欠かせない“仕掛け”があります。タイトルにライブ会場(Half Note)の名前が入り、観客の拍手も入っているため、全編ライブ盤だと思われがち。ですが実は、5曲のうちライブ録音は2曲だけなのです。
プロデューサーのクリード・テイラーは、ハーフ・ノートでのライブ録音のうち一部の演奏の出来に満足せず、約3か月後にヴァン・ゲルダー・スタジオで3曲を録り直しました。そのスタジオ録音分には、ライブから採った観客の拍手を重ねて(オーバーダブ)、アルバム全体にライブの統一感を持たせています。つまり「ライブの熱気」と「スタジオの音質の良さ」を両立させた、巧みなハイブリッド盤というわけです。
- ライブ録音(ハーフ・ノート):No Blues/If You Could See Me Now
- スタジオ録音(拍手をオーバーダブ):Unit 7/Four on Six/What’s New?
そしてもうひとつの聴きどころが、ウェスを支えるバンド。彼らはマイルス・デイヴィスのバンドを支えたリズム・セクションそのものなのです。
参加メンバー
- ウェス・モンゴメリー(ギター) … 本作の主役。親指奏法とオクターブ奏法による“歌うギター”が全開。ストレートアヘッドなジャズ・ギターの到達点として、本作をウェス最高傑作に挙げる声も多いです。
- ウィントン・ケリー(ピアノ) … トリオのリーダー。ブルース感覚とスイング感に定評があり、マイルス・デイヴィス・バンドのレギュラー・ピアニストを務めました。
- ポール・チェンバース(ベース) … マイルス黄金期を支えた名ベーシスト。歌うウォーキング・ベースが身上。
- ジミー・コブ(ドラム) … マイルスの歴史的名盤『Kind of Blue』のドラマー。しなやかで推進力あるスイングを生み出します。
ケリー・チェンバース・コブの3人は、マイルスのバンドを離れたケリーがそのまま結成した「ウィントン・ケリー・トリオ」。“元マイルス・バンドのリズム隊”がウェスと組んだという顔合わせが、本作の格を決定づけています。(なお、よく誤解されますが、ケリーが『Kind of Blue』で弾いているのは「Freddie Freeloader」の1曲のみ。他の曲のピアノはビル・エヴァンスです。)
全曲解説
オリジナルLPは全5曲。スイングの推進力と、ウェスの歌心がたっぷり味わえる構成です。
1. No Blues(作曲:マイルス・デイヴィス)
ハーフ・ノートでのライブ録音。マイルス作のブルースで、本作の長尺ナンバーです。ライブならではのストレッチした白熱のインタープレイが圧巻。ウェス史上最高のソロの一つと言われています。トリオとウェスの一体感、ケリーのブルージーなプレイが堪能できる、まさに“どスイング”の一曲です。
2. If You Could See Me Now(作曲:タッド・ダメロン/作詞:カール・シグマン)
こちらもライブ録音。タッド・ダメロンがサラ・ヴォーンのために書いたバラードの名曲です。そして——この曲こそ、パット・メセニーが「最高のギター・ソロ」と讃えたウェスのソロが収められたトラック。メセニーは、「If You Could See Me Now」でのウェスのソロについて、インタビューで「自分が聴いた中で最高のギター・ソロ」「あらゆるギタリストが残した即興の、理想にして完璧な表現」と語っています。さらにアルバム全体についても「史上最高のジャズ・ギター・アルバム」「自分にギターの弾き方を教えてくれた一枚」と最大級の言葉で評しているとされます。
3. Unit 7(作曲:サム・ジョーンズ)
ここからはスタジオ録音(拍手をオーバーダブ)。ベーシストのサム・ジョーンズが書いたブリッジがあるブルースナンバーで、快活なスイングが心地よい一曲。本作の演奏が、この曲をジャズの定番として広める一助になったとも言われます。
4. Four on Six(作曲:ウェス・モンゴメリー)
ウェスの自作代表曲で、オクターブ奏法のショーケース。ウェスは何度もこの曲を録音していますが、本作のバージョンは決定的名演としてしばしば引用されます。マイナー調の印象的なテーマと、畳みかけるソロをじっくり味わえます。
5. What’s New?(作曲:ボブ・ハガート/作詞:ジョニー・バーク)
1939年のスタンダード(元は器楽曲「I’m Free」で、後に詞が付いて改題されました)。叙情的なバラードとして演奏され、ウェスの柔らかなトーンと歌心が光る、アルバムの締めくくりにふさわしい一曲です。
『Full House』との聴き比べが面白い
ウェスはこの3年前、同じウィントン・ケリー・トリオと『Full House』(1962)というライブ盤も残しています。せっかくなので、2枚を聴き比べてみるのがおすすめです。
- 編成:『Full House』はテナーのジョニー・グリフィンが加わったクインテット。『Smokin’』はギター+トリオのカルテットで、ウェスがより主役。
- 制作:『Full House』はオール・ライブ(バークレーのTsubo)。『Smokin’』は2ライブ+3スタジオのハイブリッド。
- レーベル・時期:『Full House』はRiverside(1962)、『Smokin’』はVerve(1965)。3年でのウェスの円熟も聴き取れます。
“同じバンドの2つの記録”を聴き比べると、ウェス×ケリー・トリオという名コンビの魅力が立体的に見えてきます。
こんな人におすすめ
- ウェスの「最高傑作」を聴いてみたい人 … 多くのファン・評論家が最高傑作に挙げる一枚です。
- スイングするジャズが好きな人 … 元マイルス隊の推進力は“スイングの教科書”。
- ギターのソロをじっくり味わいたい人 … メセニーが惚れた「If You Could See Me Now」のソロは必聴です。
まとめ
『Smokin’ at the Half Note』は、元マイルス・バンドのリズム隊を得て、ウェスが小編成ジャズの頂点を極めた一枚です。ライブとスタジオを巧みに織り交ぜた音作り、そしてメセニーが惚れ込んだ歴史的ソロ——ウェス入門の“次の一枚”としても、生涯の愛聴盤としても、自信を持っておすすめできます。
ウェスの世界をもっと知りたくなったら、同じケリー・トリオとのライブ盤『Full House』徹底解説や、出世作『The Incredible Jazz Guitar』徹底解説もあわせてどうぞ。
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