ジョニー・スミス(Johnny Smith、1922〜2013)は、1950年代のニューヨークで活躍したアメリカのジャズギタリストです。ベンチャーズ版で日本でもおなじみの「Walk, Don’t Run(急がば回れ)」の作曲者であり、澄んだクリーントーンと緻密なコードワークで「クールジャズ」期を代表した名手でもあります。ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェスが「熱」なら、スミスは「静」を極めたタイプです。1958年に第一線を退いたため一般的な知名度は高くありませんが、その演奏は今も世界中で研究され続けています。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | John Henry Smith Jr.(「2世(II)」と表記する資料もあります) |
| 生没年 | 1922年6月25日〜2013年6月11日(90歳没) |
| 出身 | アメリカ・アラバマ州バーミングハム(育ちはメイン州ポートランド) |
| 楽器 | フルアコースティック(アーチトップ)のエレクトリックギター |
| 主な活動期 | 1930年代半ば〜1990年代 |
経歴
独学でギターを覚えた少年時代(1922年〜1945年)
1922年、アラバマ州バーミングハムに生まれ、大恐慌期の移住を経てメイン州ポートランドで育ちました。1930年代前半、質屋で楽器の手入れを手伝う代わりにギターを弾かせてもらう形で独学し、13歳の頃には人に教えるほどの腕前になっていたといいます。カントリーバンドを経て1940年頃(18歳)にジャズへ転向。第二次大戦中は陸軍航空軍の軍楽隊でコルネットを習得し、ここで得た読譜力と編曲能力が後のスタジオワークの土台になりました。
NBC時代と「Moonlight in Vermont」のヒット(1946年〜1953年)
1946年からNBCの専属スタジオギタリスト兼アレンジャーとなり(専属としては1951年まで。その後も1958年頃までフリーで放送・スタジオの仕事を続けました)、あらゆるジャンルの現場をこなします。1952年3月、スタン・ゲッツ(テナーサックス)らと初のリーダー録音「Moonlight in Vermont」をRoostに吹き込むと、シングルは大ヒットし、DownBeat誌の読者投票で1952年の年間ジャズレコード第2位に。バードランドなど一流クラブにも出演するようになります。
「Walk, Don’t Run」の作曲(1954年)
1954年、「Walk, Don’t Run」を作曲します。「Softly, as in a Morning Sunrise」のコード進行に新しいメロディを乗せたコントラファクト(既存曲の進行を借りた新曲)です。後にチェット・アトキンスがカバーし、それを聴いたザ・ベンチャーズの1960年版がBillboard Hot 100で全米2位(1位はエルヴィス・プレスリー「It’s Now or Never」)を記録。日本のエレキブームでも定番となった「急がば回れ」の原曲で、この印税は生涯の経済的な支えになったといわれます。
コロラド移住とその後(1957年〜2013年)
1957年、妻が第2子の出産時に子どもとともに亡くなります。1958年、残された娘を育てるためコロラドスプリングスへ移住し、第一線から退いて楽器店の経営と後進の指導が中心の生活に入りました。1970年代の弟子の一人が若き日のビル・フリゼールです。1984年にアラバマ・ジャズの殿堂入り、1998年にはスミソニアン協会からジェームズ・スミッソン記念メダルを授与され、2013年6月11日に90歳で亡くなりました。
音楽的特徴
ワイドストレッチによるクローズドヴォイシング
代名詞は、クローズドヴォイシング(和音の構成音を狭い音域に詰めた密集配置)を、指を大きく開くワイドストレッチで押さえる「ピアニスティック」なコードワークです。「Moonlight in Vermont」冒頭、わずか数個の和音でメロディと伴奏を同時に描き出すイントロは特に有名で、Guitar Player誌は「軽々と聞こえるが、実際はアスレチックな“指のクランチャー(握りつぶし)”だ」と評しました。メロディと和音を同時に弾くコードメロディ奏法の到達点の一つです。
超高速かつ正確なシングルライン
単音弾きでは、上昇フレーズの速さと粒立ちの良さからジャンゴ・ラインハルトを想起させると評されましたが、アプローチはよりダイアトニック(調の音階に沿った音使い)です。スタン・ゲッツと目にも留まらぬ速さでユニゾンする自作曲「Jaguar」は、当時のジャズギターの技術水準を塗り替えた演奏といわれます。
「音の純度」を追求したクリーントーン
元NBCスタジオマンらしく、タッチ・音程・音色の美しさを徹底して追求し、アンプにもフラットな周波数特性を求めました。甘く澄んだクリーントーンは、クールジャズ期のギターサウンドを象徴する音色です。
おすすめアルバム
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『Moonlight in Vermont』(1956年発売/録音1952年3月〜1953年8月、Roost)
まず聴くべき代表作です。10インチLP2枚『Jazz at NBC』を12インチLPにまとめたもので、録音は1952年3月〜1953年8月、発売は1956年9月。表題曲のシングルは1952年に大ヒットしています。セッションごとにテナーサックスが交代し、スタン・ゲッツ、ズート・シムズ、ポール・クイニシェットが参加。サンフォード・ゴールド(ピアノ)らが脇を固めます。聴きどころは、ワイドストレッチの和音が霧のように連なる表題曲冒頭のコードメロディと、ゲッツとの超高速ユニゾンが痛快な「Jaguar」。静謐で室内楽的なサウンドは、クールジャズ期のギター録音の金字塔と評価されています。
このほかでは、円熟期の代表作『The Sound of the Johnny Smith Guitar』(1961年、Roost)がおすすめです。Gibsonのシグネチャーモデル誕生と同時期で、クリーントーンとコードワークの完成形が聴けます。Verve移籍後の『Johnny Smith’s Kaleidoscope』(1967年)は多彩なアレンジが光る再評価の高い1枚。Roost期の集大成としては8枚組CDボックス『The Complete Roost Johnny Smith Small Group Sessions』(2002年、Mosaic)もあります。
使用機材
ギターはキャリア初期にEpiphone、Gibson、Gretschなどを経て、特にD’Angelicoのアーチトップを愛用しました。シグネチャーモデルは1955年のGuild「Johnny Smith Award」が最初ですが、設計変更に本人は不満だったとされます。1961年にはGibsonから「Johnny Smith」モデルが登場。愛用のD’Angelicoを基に、Xブレイシングの単板スプルーストップ、25インチスケール、そして表板の振動を妨げないフローティング・ミニハムバッカー(コントロール類はピックガード側に集約)を備えた、アーチトップ設計の新基準とされる名機です。1989年以降はHeritageで同名モデルが製作されました。
アンプは、1950年代にAmpegと組み、フラットな周波数特性を目指したシグネチャー機を開発。代表作のJS-35「Fountain of Sound」は、高効率の15インチスピーカーを上向きに搭載した35W RMSという異色の設計で、同社のプロ向け「Guitaramp」シリーズの一つとして作られました。
影響・評価
ジョニー・スミスは、タル・ファーロウやバーニー・ケッセルらと並ぶ1950年代ニューヨークシーンの頂点の一人で、コードメロディ奏法では現在も教則的な研究対象です。チェット・アトキンスがバードランドの楽屋を訪ね、本人の了解を得たうえで「Walk, Don’t Run」を自らのスタイルで録音したという逸話が残るなど、カントリー系のギタリストにも影響が及びました。「Walk, Don’t Run」の原作者としてロックインスト史にも名を残し、1998年のスミッソン記念メダルはこうした幅広い功績に対するものです。ビル・フリゼールの師でもあり、2018年のトリビュート盤『The Maid With The Flaxen Hair』(メアリー・ハルヴォーソン&ビル・フリゼール、Tzadik)以降、再評価も進んでいます。一方で1958年に第一線を退いたため、実力に比して知名度が低い「知る人ぞ知る」存在とも評されます。
まとめ
ジョニー・スミスは、「Walk, Don’t Run」の作曲者と、クールジャズ期のコードメロディの名手という2つの顔を持つギタリストです。ワイドストレッチの和音と澄んだクリーントーンは、今なおジャズギターを学ぶ人の大きなヒントになります。まずは代表作『Moonlight in Vermont』(1956年発売、Roost)の冒頭1曲から、その静かで美しい世界に触れてみてください。


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