ピーター・バーンスタイン(Peter Bernstein)は、1967年生まれ、ニューヨークを拠点に活躍するジャズギタリストです。速弾きに頼らず、一音一音を丁寧に歌わせるフレージングと、太く温かい音色を持ち味とし、これまでに参加した録音は300枚以上にのぼります。巨匠ジム・ホールが「私がこれまでに聴いた中で最も印象的な若手ギタリスト」と絶賛したことでも知られる存在です。ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェスらの伝統を受け継ぐ、王道ジャズギターの現在形を知るうえで欠かせない一人です。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | Peter Andrew Bernstein(ピーター・アンドリュー・バーンスタイン) |
| 生没年 | 1967年9月3日生まれ(存命) |
| 出身 | アメリカ・ニューヨーク市 |
| 楽器 | ギター(フルアコースティック/アーチトップ) |
| 主な活動期 | 1980年代後半〜現在 |
※映画音楽の作曲家ピーター・バーンスタイン(エルマー・バーンスタインの息子)とは同姓同名の別人です。
経歴
ピアノからギターへ(1967年〜1980年代後半)
1967年、ニューヨーク市に生まれます。8歳でピアノを始め、13歳でギターへ転向しました。主に耳で聴いて学ぶ独学スタイルで腕を磨いたのち、1980年代後半にはラトガース大学でテッド・ダンバー(ギター)やケニー・バロン(ピアノ)に学び、その後ニューヨークのニュースクール(The New School)に移っています。
ジム・ホールとの出会いとプロ活動の本格化(1989年〜1990年代前半)
1989年頃からニューヨークのジャズシーンで本格的に活動を始めます。転機となったのは1990年。ニュースクールで出会った巨匠ジム・ホールに評価され、JVCジャズ・フェスティバルのホール主催「インヴィテーショナル・コンサート」に、パット・メセニーやジョン・スコフィールドら名手が顔をそろえる中で抜擢されました。ホールは「彼は過去にも未来にも目を向けている」と、その資質を高く評価しています。同じ1990年からは、アルトサックスの大御所ルー・ドナルドソンのバンドに約10年間在籍。並行して、ウェス・モンゴメリー・トリオの元メンバーであるオルガン奏者メルヴィン・ラインの録音にも参加し(共演盤は5枚にのぼります)、オルガンジャズの語法を吸収しました。さらに1989年頃には、ラリー・ゴールディングス(オルガン)、ビル・スチュワート(ドラム)とのオルガントリオを結成。このトリオは30年以上続く長寿ユニットとなっています。
リーダー作の発表と一流グループへの参加(1992年〜2000年代)
1992年12月には初リーダー作『Somethin’s Burnin’』(Criss Cross)を録音。ブラッド・メルドー(ピアノ)、ジョン・ウェバー(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)が参加しています。1994年12月に録音され翌1995年に発売された『Signs of Life』は、現在も代表作として挙げられる一枚です。その後は1995〜97年にジョシュア・レッドマンのグループ、1999〜2001年にはダイアナ・クラールのカルテットに参加。ソニー・ロリンズ、リー・コニッツ、ニコラス・ペイトンらのグループでも活躍しました。2008年にはBlue Noteレーベル70周年を記念して結成されたセプテット「Blue Note 7」に参加し、『Mosaic』(2009年発売)を録音。同じ2008年にはトリオ作『Monk』でセロニアス・モンクの曲集にも取り組んでいます。
20年越しのカルテット共演と現在(2015年〜)
2015年1月、『Signs of Life』のカルテット(メルドー、クリスチャン・マクブライド、グレゴリー・ハッチンソン)が、ジャズ・アット・リンカーンセンターで初めての共演ライブを3夜にわたって行いました。録音から約20年を経ての初ライブで、その模様は『Signs LIVE!』(2017年、Smoke Sessions)として発売されています。2016年には『Let Loose』を発表し、2024年9月には最新リーダー作『Better Angels』をリリース。現在はNYU(ニューヨーク大学スタインハート校)で後進の指導にもあたっています。
音楽的特徴
メロディーを最優先した「歌う」シングルライン
バーンスタインの魅力は、まずそのシングルライン(単音で奏でるメロディーライン)にあります。ビバップの語彙を土台にしながら、音数を欲張らない経済的な音選びで、フレーズの起承転結とニュアンスを大切にするスタイルです。速さで圧倒するのではなく「間」で聴かせる美学は、師でもあるジム・ホール直系といえます。
エフェクトを使わない太く温かいトーン
エフェクターを一切使わず、アーチトップギター(箱型のフルアコースティックギター)をアンプに直結するだけのシンプルなセッティングも特徴です。ウェス・モンゴメリーやグラント・グリーンを思わせる、丸く芯のある温かい音色は、彼の最大の個性といってよいでしょう。
オルガンジャズ仕込みのグルーヴと伴奏力
ルー・ドナルドソンやメルヴィン・ライン、そしてゴールディングス=スチュワートとの長年のオルガントリオ経験に裏打ちされた、ソウルフルなタイム感と的確なコンピング(伴奏)も見逃せません。300枚を超える録音に呼ばれ続ける理由は、この確かな伴奏能力にあります。
おすすめアルバム
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『Signs of Life』(1994年録音・1995年発売、Criss Cross Jazz)
1994年12月17日にニューヨークのRPMスタジオで録音され、翌1995年に発売されたリーダー作です(資料によっては「1994年作」と表記されることもあります)。メンバーはブラッド・メルドー(ピアノ)、クリスチャン・マクブライド(ベース)、グレゴリー・ハッチンソン(ドラム)という、後にそれぞれ大スターとなる顔ぶれ。オリジナル曲「Blues for Bulgaria」「Jet Stream」などとスタンダード「The Things We Did Last Summer」などをバランスよく収めた全9曲・約72分で、当時27歳のバーンスタインの完成された歌心を堪能できます。AllMusicでは4.5/5の高評価。実はこのカルテットは録音当時ライブを一度も行っておらず、初の共演ライブは約20年後の2015年に実現しました(その記録が『Signs LIVE!』(2017年)です)。
このほかでは、メルドー、ラリー・グレナディア(ベース)、ビル・スチュワート(ドラム)と録音した円熟期の人気作『Heart’s Content』(2003年、Criss Cross)がおすすめです。『Monk』(2008年、Xanadu)は、ダグ・ワイス(ベース)、ビル・スチュワートとのトリオでセロニアス・モンクの曲12曲に取り組んだ意欲作。そして最新作『Better Angels』(2024年、Smoke Sessions)は、メルドー、ヴィセンテ・アーチャー(ベース)、アル・フォスター(ドラム)という、この4人としては初共演となるカルテットによる録音で、晩年のアル・フォスターの演奏の記録としても貴重な一枚です。
使用機材
ギターは、フィラデルフィアの製作家ジョン・ザイドラー(John Zeidler)による1981年製とされるアーチトップを、1990年代後半以降ほぼ一貫してメインギターとして使用しています。フローティング・ハムバッカー(ボディに直接取り付けないタイプのピックアップ)を搭載したモデルです。
アンプはFender系の真空管アンプ(Deluxe Reverbやヴィンテージ・Vibroluxなど)を愛用しているとされ、Polytoneとの2台併用で鳴らすこともあると言われます。Twin ReverbやRoland Jazz Chorusの使用例も報告されていますが、アンプ周りはファン発の情報が多く断定はできません。確かなのは、エフェクターを基本的に使わない「ギターとアンプだけ」の潔いセッティングだということです。
影響・評価
バーンスタインは、ウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン、ジム・ホールらの伝統を現代に継承する「ポスト・バップ王道派」の最高峰として広く認知されています。ゴールディングス=バーンスタイン=スチュワートのオルガントリオは、1990年代半ばにニューヨーク・タイムズ紙から「過去10年で最高のオルガントリオ」と評され、現代オルガンジャズの基準点として評価が定着しました。派手な革新者ではなく「本流の深化」で評価されるタイプであり、カート・ローゼンウィンケルやジェシー・ヴァン・ルーラーといった同世代以降の「モダン派」との対比で語られることも多いギタリストです。
まとめ
ピーター・バーンスタインは、歌心あふれるシングルラインと温かい音色で、ジャズギターの王道を現代に受け継ぐ名手です。ルー・ドナルドソンからダイアナ・クラールまで、世代を超えた信頼を集めてきたキャリアがその実力を物語っています。まずは代表作『Signs of Life』(1994年録音・1995年発売)で、若き日のメルドーやマクブライドとの共演と、27歳にしてすでに完成されていた歌心をぜひ味わってみてください。そこから長寿オルガントリオや最新作『Better Angels』へと聴き進めれば、この人の魅力がさらに深く見えてくるはずです。



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