ジョニー・スミス(Johnny Smith)『Moonlight in Vermont』徹底解説|静けさで聴かせるクール・ジャズ・ギターの金字塔

ジョニー・スミス Moonlight in Vermont 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

派手なアドリブ合戦も、豪快なスウィングもありません。このアルバムの主役は、ギター1本が紡ぎ出す和音の静けさです。ジョニー・スミスが密集和音で歌わせるメロディに、若き日のスタン・ゲッツの柔らかなテナー・サックスがそっと寄り添う表題曲「Moonlight in Vermont」は、1952年にジャズとしては異例のヒットを記録し、スミスは「クール・ジャズ・ギターの王」と呼ばれるようになりました。70年以上を経た今も、コード・メロディ(メロディを和音で弾く奏法)の金字塔として聴き継がれる1枚です。

本記事では、この『Moonlight in Vermont』の成り立ちから参加メンバー、オリジナル盤全12曲までをじっくり解説します。スミスの経歴や奏法の全体像を先に知りたい方は、ジョニー・スミスとは?(人物紹介記事)もあわせてお読みください。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1956年9月
レーベル Roost(ルースト)
録音日 1952年3月〜1953年8月(4回のセッション)
録音場所 ニューヨーク
プロデューサー テディ・レイグ(Teddy Reig)

編成はギター+テナー・サックス+ピアノ+ベース+ドラムのクインテット(5人組)で、名義は「ジョニー・スミス・クインテット・フィーチャリング・スタン・ゲッツ」です。

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どんなアルバム?

ジョニー・スミスは1922年、アラバマ州バーミングハム生まれ。独学でギターを身につけ、1946年から51年までNBCの専属スタジオ・ギタリスト兼アレンジャーを務めた人物です。放送の現場で鍛えられた超一流の読譜力と正確無比なテクニックは、当時のニューヨークでも際立った存在でした。

1952年3月11日、スミスは自身のグループに、当時25歳のスタン・ゲッツを迎えてレコーディングを行います。ここで生まれたのが「Moonlight in Vermont」でした。音源はまずシングルと10インチLP『Jazz at NBC』(Royal Roost RLP-410)として世に出ます。なおこのタイトルはスミスがNBC専属だったことにちなむもので、NBCのスタジオで録音されたという意味ではない、とされています。

「Moonlight in Vermont」はジャズとしては異例のヒットとなり、ジャズ・ファンの枠を超えるベストセラーになったと伝えられます。DownBeat誌の1952年読者投票では年間ジャズ・レコード第2位に選出され、スミスは「King of the Cool Jazz Guitar(クール・ジャズ・ギターの王)」と称されるようになりました。さらにこの成功はゲッツの知名度も押し上げ、名プロデューサー、ノーマン・グランツとの契約につながったとされています。

本作『Moonlight in Vermont』はこのヒットを受けて、1952〜53年に録音された10インチLP『Jazz at NBC』2枚の音源を再編集し、1956年9月に12インチLPとして発売された編集盤です。同年の年間No.1ジャズ・アルバムになったとも伝えられます。

参加メンバー

名義は「featuring Stan Getz」ですが、実際にゲッツが吹いているのは12曲中6曲。残りはズート・シムズが2曲、ポール・クイニシェットが4曲を担当しており、3人のテナー奏者の聴き比べも本作の楽しみのひとつです。録音時期によりリズム・セクションも入れ替わっています。

  • ジョニー・スミス(ギター) … リーダー。元NBC専属ギタリストで、精密なコード・ワークと歌うようなシングル・ラインを兼ね備えた名手。全曲に参加。
  • スタン・ゲッツ(テナー・サックス) … 録音当時25歳。柔らかなサブトーン(息を多く混ぜた音色)が持ち味。6曲に参加。
  • ズート・シムズ(テナー・サックス) … 歌心あふれるプレイで知られる名テナー。2曲に参加。
  • ポール・クイニシェット(テナー・サックス) … レスター・ヤング直系の音色から「ヴァイス・プレス」と呼ばれた奏者。4曲に参加。
  • サンフォード・ゴールド(ピアノ) … 全セッションに参加し、静かな彩りを添えるピアニスト。
  • エディ・サフランスキー(ベース) … 1952年3月・4月のセッションに参加。
  • ボブ・カーター(ベース) … 1952年11月のセッションに参加。
  • アーノルド・フィッシュキンド(ベース) … 1953年8月のセッションに参加。
  • ドン・ラモンド(ドラム) … 4回中3回のセッションを支えた実質的なレギュラー・ドラマー。
  • モーリー・フェルド(ドラム) … 1952年11月のセッションに参加。

全曲解説

現行のCD・配信は19曲入りで曲順も異なるため、ここでは1956年オリジナルLP基準の全12曲を、当時の曲順どおりに紹介します。

1. Moonlight in Vermont(作曲:Karl Suessdorf)

本作の代名詞にして、ジャズギター史に残る名演です。スミスはピアニスティックな幅広のグリップから生まれる独特のクローズド・ヴォイシング(密集和音)でテーマを和音化し、低音域から最高音域までを一続きに駆け上がるようなアルペジオを聴かせます。ゲッツのサブトーンとの溶け合いは何度聴いてもため息もの。後のギタリストたちの手本になったと評される1曲です。

2. Tabu(作曲:Margarita Lecuona)

ラテン由来のナンバーで、静かな編成のなかに異国的な色彩感がにじむ1曲。Guitar Player誌のレビューでは、カントリー系の超絶技巧派ジミー・ブライアントでも手を焼きそうなフレーズを余裕たっぷりに弾きこなす、スミスの技巧の見せ場として取り上げられました。ゲッツのテナーとスミスのギターが陰影豊かな世界を描きます。

3. Tenderly(作曲:Walter Gross)

有名スタンダードを、スミスならではの緻密なコード・ワークでじっくりと。Guitar Player誌が表題曲と双子のようだと評した演奏で、和音の積み方ひとつでバラードがどこまで豊かになるかを教えてくれます。

4. Cavu(作曲:Johnny Smith)

スミスのオリジナル曲。この曲ではテナーがポール・クイニシェットに交代します。1953年8月のセッションからの1曲で、レスター・ヤング直系の軽やかなテナーとスミスの精密なギターの組み合わせが楽しめます。

5. A Ghost of a Chance(作曲:Victor Young)

ズート・シムズが参加する、1952年4月録音のバラード。歌心で知られるシムズのテナーが、スミスの繊細な伴奏の上でメロディをじっくり歌い上げます。

6. Jaguar(作曲:Johnny Smith)

スミス自作の高速ナンバーで、彼の代表的オリジナルとして知られる1曲。正確無比な高速シングルノートの見せ場で、静のイメージが強い本作における「動」の顔です。テナーはゲッツが担当します。

7. Stars Fell on Alabama(作曲:Frank Perkins)

B面はゲッツ参加のスタンダードから。アラバマ出身のスミスが、故郷の名を冠した曲を取り上げているのが味わい深い1曲です。

8. Where or When(作曲:Richard Rodgers)

ロジャース&ハートの名曲によるバラード。遅いテンポでこそ真価を発揮する、スミスの繊細なタッチと正確さが堪能できます。ちなみに現行CD・配信ではこの曲がアルバムの幕開けに置かれています。

9. I’ll Be Around(作曲:Alec Wilder)

アレック・ワイルダー作の隠れた名バラードを、クイニシェットのテナーとともに。静けさのなかで一音一音を置いていくような演奏は、深夜のリスニングにぴったりです。

10. Cherokee(作曲:Ray Noble)

ビバップの試金石としても知られるアップテンポの技巧派ナンバー。クイニシェットとの快演で、スミスの運指の正確さとスピードを改めて見せつけます。

11. Yesterdays(作曲:Jerome Kern)

ジェローム・カーンのスタンダード。ここでもスミスのタッチの美しさが際立ち、遅いテンポの曲で光る丁寧な音づくりを味わえます。

12. Vilia(作曲:Franz Lehár)

アルバムの締めくくりは、レハールのオペレッタ《メリー・ウィドウ》からという異色の選曲。シムズ参加のナンバーで、スタジオの現場で膨大なレパートリーをこなしてきたスミスの懐の深さを物語ります。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

本作の核心は、スミスのクローズド・ヴォイシングによるコード・メロディと、ホーンのように歌うシングル・ラインにあります。室内楽のような静けさをまとったサウンドは、当時発展しつつあったクール・ジャズを代表する録音のひとつと位置づけられ、Guitar Player誌は「全曲が素晴らしく、捨て曲は一切ない」と絶賛しています。曲によってギターがピアノのようにも、ホーンのようにも響くのも本作の面白さです。

影響の広がりも特筆ものです。ハービー・ハンコックがジャズにのめり込むきっかけになった録音とされ、ロカビリーのエディ・コクランにも影響を与え、チェット・アトキンスは最も好きなジャズ・ギタリストにスミスを挙げました。エレキギターの歴史書『A Concise History of the Electric Guitar』でも、エレキギター史の重要録音のひとつとして取り上げられています。ジャンルの垣根を越えて「ギターの可能性」を示した1枚と言えるでしょう。

こんな人におすすめ

  • コード・メロディを学びたいギタリスト … クローズド・ヴォイシングによるテーマ演奏の最高峰。教材として繰り返し聴く価値があります。
  • 静かに聴けるジャズを探している人 … 室内楽的な落ち着いたサウンドで、夜のリスニングや作業のお供に最適です。
  • スタン・ゲッツのファン … ブレイク前夜、25歳のゲッツの柔らかなテナーが聴けるうえ、シムズ、クイニシェットとの聴き比べも楽しめます。
  • ジャズギターの歴史をたどりたい人 … 後世のギタリストに大きな影響を与えた、ジャンル史の分岐点となる録音です。

まとめ

『Moonlight in Vermont』は、1952〜53年の録音を1956年にまとめた編集盤でありながら、全体をひとつの静かな世界観が貫く不思議なアルバムです。テナーが3人入れ替わってもぶれないのは、中心にジョニー・スミスのギターという確固たる軸があるから。コード・メロディの美しさ、高速パッセージの正確さ、バラードでのタッチの繊細さと、ギターの魅力が全方位で詰まっています。

まずはオリジナル盤の曲順で、表題曲から「Vilia」までを通して聴いてみてください。さらに深く知りたくなったら、2002年にMosaicから発売された8枚組ボックス『The Complete Roost Johnny Smith Small Group Sessions』という沼も待っています。静けさの奥にある豊かさを、ぜひ体感してほしい1枚です。

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