ラッセル・マローン(Russell Malone)は、1990年代以降のメインストリーム・ジャズギターを代表するアメリカのギタリストです。ダイアナ・クラールやロン・カーターを支えた「伴奏の名手」として知られる一方、リーダー作では流麗な単音ソロと豊かなコードワークを聴かせました。その音楽は、ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事)で紹介したウェスからジョージ・ベンソンへと続く系譜を受け継ぐ、正統派のジャズギターです。2024年8月にブルーノート東京での公演後に急逝したことで、日本のファンにとっても特別な記憶を残すギタリストとなりました。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | ラッセル・ラマー・マローン(Russell Lamar Malone) |
| 生没年 | 1963年11月8日〜2024年8月23日(享年60) |
| 出身 | アメリカ・ジョージア州オールバニ |
| 楽器 | ギター(フルアコ=空洞ボディのエレキギターが中心) |
| 主な活動期 | 1980年代後半〜2024年 |
経歴
教会とレコードで育った独学時代(1963年〜1980年代前半)
1963年、ジョージア州オールバニに生まれたマローンは、ゴスペル(教会音楽)が身近な環境で育ちました。4歳で母親に買ってもらったおもちゃのギターを弾き始め、6歳のころには教会で演奏していたといいます。ほぼ独学で、B.B.キングやウェス・モンゴメリー、チェット・アトキンスらのレコードを教材に腕を磨きました。12歳のころ、テレビでベニー・グッドマンと共演するジョージ・ベンソンを見たことがきっかけで、ジャズギターを志すようになります。
ジミー・スミスとハリー・コニックJr.のバンドへ(1985年〜1990年代前半)
1983年に高校を卒業するとヒューストンを経て、1985年にアトランタへ移り、地元のシーンで経験を積みます。1988年からの約2年間はオルガン奏者の巨人ジミー・スミスのバンドに在籍し、実戦の場で鍛えられました。続いて1990年ごろからは、ハリー・コニックJr.のビッグバンドに数年間参加します。1992年にはColumbiaからリーダーデビュー作『Russell Malone』を発表。ベースの重鎮ミルト・ヒントンが参加した同作に続き、1993年には『Black Butterfly』を発表しました。
ダイアナ・クラール・トリオと出世作『Sweet Georgia Peach』(1990年代半ば〜末)
1995年、マローンはダイアナ・クラール・トリオのギタリストとなり、世界的に知られるようになります。『All For You』(1996年)、『Love Scenes』(1997年)、グラミー賞を受賞した『When I Look in Your Eyes』(1999年)といった彼女の代表作に参加しました。そして1998年、自身の代表作となる『Sweet Georgia Peach』(Impulse!)を発表します。
ロン・カーターとの活動、そして2024年の急逝
2000年代に入ると、Verveから『Look Who’s Here』(2000年)と『Heartstrings』(2001年)を発表。ピアニストのベニー・グリーンとのデュオ作『Jazz at The Bistro』(2003年、Telarc)でも高い評価を得ました。またベースの巨匠ロン・カーター率いるゴールデン・ストライカー・トリオの中核メンバーとして長く活動し、2015〜2017年にはHighNoteレーベルから3枚のアルバムを発表。2021年からはウィリアム・パターソン大学で後進の指導にもあたりました。2024年8月23日、同トリオの日本公演中に東京で急逝。ブルーノート東京での公演を終えた後に心臓発作を起こしたと伝えられ、晩年は腎不全を患いながらツアーを続けていたことも報じられています。
音楽的特徴
ゴスペルとブルースに根ざした歌心
教会で育ち、B.B.キングを出発点とするマローンの演奏には、高度なテクニックの中にも常にブルージーで温かいフレージングがあります。批評家からは「ブルージーなベンド(弦を押し上げて音程を変える奏法)から軽やかに波打つアルペジオまで、きわめて精確で表現力豊か」と評されました。
流麗なシングルラインと豊かなコードメロディ
ジョージ・ベンソン直系の滑らかなシングルライン(単音のフレーズ)と、無伴奏のソロギターで聴かせる重厚なコードメロディ(メロディと和音を同時に弾く奏法)の両立が最大の武器です。とくにバラードでの美しい音色と、ダイナミクス(音量の強弱)の細やかなコントロールに定評がありました。
歌手たちに信頼された伴奏の名手
ダイアナ・クラールやダイアン・リーヴスといった歌手から絶大な信頼を得た名サイドマン(共演者として支える演奏家)でもありました。リーヴスは「ラッセルには置き間違えた音がひとつもなかった」と証言しています。ジャズにとどまらずカントリー、ゴスペル、R&Bまで含むアメリカ音楽全般への百科事典的な知識に裏打ちされた、選曲と引用のセンスも大きな特徴です。
おすすめアルバム
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『Sweet Georgia Peach』(1998年・Impulse!)
1998年2月にニューヨークのアヴァター・スタジオで録音され、同年に発売されたマローンの代表作です。プロデュースは名匠トミー・リピューマ。ケニー・バロン(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ルイス・ナッシュ(ドラム)という超一流リズムセクションを迎え、一部の曲ではスティーヴ・クルーン(パーカッション)も加わります。クラール・トリオで注目された直後の本人名義の勝負作で、マローンの実力を世に知らしめました。ハイライトはケニー・バロンとのデュオで演奏されるセロニアス・モンクの「Bright Mississippi」。「Sweet Georgia Brown」のコード進行に基づく曲で、アルバムタイトルと洒落た呼応を見せる選曲です。タイトルは桃の名産地である故郷ジョージア州にちなんでおり、全編を通じてメロディックで温かみのある演奏が楽しめます。
ほかでは、伝統に根ざした出発点を示すリーダーデビュー作『Russell Malone』(1992年、Columbia)、ストリングスとの共演でバラードの美学が際立つ『Heartstrings』(2001年、Verve)、そして晩年の円熟したカルテット演奏が味わえる『Time for the Dancers』(2017年、HighNote)もおすすめです。
使用機材
マローンはキャリアを通じて、ギブソンのSuper 400やL-5といった大型のフルアコを愛用してきました。ダンジェリコの公式アーティストにも名を連ねており、同社のEXL-1も長く使用しています。晩年はサドウスキーが彼のために製作したカスタムのセミホロー(半空洞ボディのギター)を弾いていたと伝えられています。
アンプはステージでAER Compact 60を使用していたといわれます。弦はダダリオのXL EJ22(ジャズミディアム、ゲージ13〜56)を愛用しており、こちらはメーカーの公式アーティストページでも紹介されています。
影響・評価
マローンは、ウェス・モンゴメリーやケニー・バレルからジョージ・ベンソンへと続くメインストリーム・ジャズギターの正統な後継者として、1990年代以降の世代では第一人者格と評価されています。ハリー・コニックJr.は追悼の言葉で「音楽的な輝きと、深くソウルフルで巧みな芸術的個性」を称え、ダイアン・リーヴスは「置き間違えた音がひとつもない」ギタリストと評しました。リーダー名義の名盤に加え、ジミー・スミス、ロン・カーター、ソニー・ロリンズら巨匠を支えた屈指のサイドマンとして、ジャズギター史に名を残す存在です。
まとめ
ラッセル・マローンは、教会とブルースで培った歌心と確かな技巧を兼ね備え、リーダーとしてもサイドマンとしても一流だった稀有なジャズギタリストです。2024年にブルーノート東京での公演後に急逝したことは、日本のジャズファンにとっても忘れられない出来事となりました。その魅力を知る入り口としては、やはり代表作『Sweet Georgia Peach』(1998年、Impulse!)が最適です。この一枚から、温かく流麗なマローンの世界に触れてみてください。



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