リー・リトナー(Lee Ritenour)は、アメリカ・ロサンゼルス出身のジャズ/フュージョン・ギタリストです。3,000を超えるスタジオセッションに参加してきた名手で、卓越した指さばきから「キャプテン・フィンガーズ(Captain Fingers)」の異名で呼ばれてきました。少年時代に影響を受けたウェス・モンゴメリー(ウェス・モンゴメリーとは?(人物紹介記事))の語彙を、フュージョンやスムーズジャズへとつないだ存在でもあります。この記事では、その経歴と魅力を紹介します。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本名 | リー・マック・リトナー(Lee Mack Ritenour) |
| 生没年 | 1952年1月11日生まれ(存命) |
| 出身 | アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス |
| 楽器 | エレクトリックギター(Gibson ES-335、L-5ほか)、クラシックギター、ギターシンセサイザー |
| 主な活動期 | 1968年頃〜現在(ソロデビューは1976年) |
経歴
ロサンゼルスの少年がファーストコールになるまで(1952〜1975年)
1952年にロサンゼルスで生まれたリトナーは、8歳でギターを始め、12歳で音楽の道を志します。1960年代後半にはウェス・モンゴメリーに傾倒し、ジョー・パスやハワード・ロバーツに個人的に師事したとされます。16歳でママス&パパスのレコーディングに参加して初セッションを経験。その後、南カリフォルニア大学(USC)でクリストファー・パーケニングにクラシックギターを学び、21歳で同校のギター講師に抜擢されました。1970年代前半からはLAスタジオシーンで真っ先に声のかかる「ファーストコール」ギタリストとなり、これまでに3,000を超えるセッションに参加しています。
ソロデビューと『Captain Fingers』(1976〜1979年)
1976年、Epicから『First Course』でソロデビュー。翌1977年には、異名をそのままタイトルに掲げた代表作『Captain Fingers』を発表します。同じ頃、日本のJVC(日本ビクター)が企画したダイレクトカッティング録音(テープを介さず原盤に直接刻む高音質録音)にも参加し、日本での人気を高めるきっかけになったといわれます。1979年にはピンク・フロイド『The Wall』のセッションに参加したことでも知られています(「Run Like Hell」などでの、クレジットなしの参加です)。
ヒット曲「Is It You」とグラミー受賞(1980年代)
1981年の『Rit』では、エリック・タッグのボーカルをフィーチャーした「Is It You」がBillboard Hot 100で15位に入るヒットとなりました。1985年にはキーボード奏者デイヴ・グルーシンとの双頭名義作『Harlequin』を発表し、収録曲「Early A.M. Attitude」のアレンジで1986年の第28回グラミー賞(ベスト・インストゥルメンタル・アレンジメント)を受賞します。ノミネート歴は通算16回を数えますが、受賞は現在までこの1回のみです。
フォープレイ結成、そして現在まで(1990年代〜)
1990年の『Stolen Moments』でストレートアヘッドなジャズ(正統派の4ビートジャズ)に接近すると、1991年にはボブ・ジェームス、ネイザン・イースト、ハーヴィー・メイソンとフォープレイ(Fourplay)を結成。デビュー作はコンテンポラリー・ジャズ・チャート1位、ゴールドディスク認定という成功を収めました。1993年にはウェス・モンゴメリーへのトリビュート作『Wes Bound』を発表。1997年にフォープレイを脱退(後任はラリー・カールトン)した後も、『6 String Theory』(2010年)などを発表し、2018年の山火事(ウールジー火災)で自宅兼スタジオを失った後も現役で活動を続けています。
音楽的特徴
ウェス・モンゴメリー直系のフレージング
リトナーの土台にあるのは、オクターブ奏法(1オクターブ違いの同じ音を2本の弦で同時に弾く奏法)に代表されるウェス・モンゴメリーの語彙です。歌うようなラインをフュージョンやポップスの文脈に翻訳して聴かせるところに個性があり、トリビュート作『Wes Bound』はその集大成といえます。
セッションで鍛えられた正確さと多様性
3,000を超えるセッション経験に裏打ちされたタイム感と、カッティング(リズムギターの細かい刻み)の精度は大きな武器です。ジャズ、ロック、R&B、ブラジル音楽までを行き来する順応力も持ち味で、異名の由来となった高速かつクリーンなピッキングも聴きどころです。
クラシックの素養とテクノロジーへの好奇心
パーケニング仕込みのクラシックギターの素養は、ナイロン弦を用いたブラジル音楽路線の作品で美しく発揮されています。一方で、1970年代からギターシンセサイザー(ギターの演奏でシンセ音源を鳴らせる電子楽器)をいち早く導入するなど新技術への好奇心も旺盛で、伝統と先進性の同居がリトナーの音楽を特徴づけています。
おすすめアルバム
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『Captain Fingers』(1977年)
自身の異名をそのままタイトルにした、Epicからの代表作です。録音はバーバンクのKendun Recordersなどで行われ、デイヴ・グルーシン(キーボード/アレンジ)、ハーヴィー・メイソンとジェフ・ポーカロ(ドラム)、アンソニー・ジャクソンとアルフォンソ・ジョンソン(ベース)、レイ・パーカーJr.(リズムギター)ら総勢20名超のLAトップセッションマンが参加しました。聴きどころは、タイトル曲の超高速ユニゾンと切れ味鋭いカッティング、先駆的なギターシンセの使用、そしてスティーヴィー・ワンダー「Isn’t She Lovely」のカバーです。Billboard 200で178位、Jazz Albumsチャートで31位を記録した、LAフュージョン黄金期を伝える「名刺代わり」の1枚です。
『Rit』(1981年)はAOR/ポップ路線の頂点で、ヒット曲「Is It You」を収録しています。『Wes Bound』(1993年)はウェス・モンゴメリーへのトリビュートで、コンテンポラリー・ジャズ・チャート1位を記録した「ジャズギタリストとしてのリトナー」を最もよく示す作品です。『6 String Theory』(2010年)はギター人生50年を記念した企画盤で、B.B.キング、ジョージ・ベンソン、スラッシュら約20人のギタリストが参加しています。
使用機材
メインギターとして知られるのは、1961年製チェリーレッドのGibson ES-335で、2008年にはGibson Custom Shopからこのギターを再現したシグネチャーモデルが限定発売されました。同じくCustom Shop製の「Lee Ritenour L-5」シグネチャーもあり、L-5はウェス・モンゴメリーの愛器として知られるモデルだけに、敬愛を感じさせる選択です。1982年にはIbanezから本人シグネチャーのセミホロウ「LR10」も発売されました。このほか、フロイドローズやEMGピックアップを載せる改造を施した1958年製Fender Stratocasterの使用でも知られます。
アンプについては、ファンクや歪んだサウンドにはFender Vibrolux、クリーントーンにはMusic Manを使い分けていたと語られていますが、時期によって機材は移り変わっており、あくまで一例です。
影響・評価
ジャズギター史におけるリトナーは、ウェス・モンゴメリー以降の「歌えるジャズギター」を、1970〜80年代のクロスオーバー/フュージョン、さらに90年代のスムーズジャズへと橋渡しした中心人物の一人です。ラリー・カールトンと並ぶ「LAスタジオ系ギタリスト」の代名詞であり、フォープレイの結成でコンテンポラリー・ジャズの商業的確立にも貢献しました。2011年にはドイツのECHOジャズ賞を受賞するなど評価は国際的で、度重なる来日公演もあり、日本で特に愛されてきたフュージョンギタリストの一人でもあります。
まとめ
リー・リトナーは、3,000を超えるセッションで鍛えた技術を土台に、ウェス・モンゴメリー直系のジャズギターをフュージョンやスムーズジャズへと広げてきたギタリストです。スタジオの職人としての正確さと、ソロアーティストとしての創造性を両立させた点で、ジャズギター史でも重要な存在といえます。入門にはやはり代表作『Captain Fingers』(1977年)がおすすめです。「キャプテン・フィンガーズ」の指さばきを、ぜひ体感してみてください。



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