リー・リトナー(Lee Ritenour)『Captain Fingers』徹底解説|LAフュージョンの「雛型」となった1977年の出世作

リー・リトナー Captain Fingers 解説記事のアイキャッチ アルバム紹介

「キャプテン・フィンガーズ」——超絶技巧ゆえに付いたニックネームを、そのままタイトルに掲げてしまう。1977年に発表された本作は、リー・リトナーの名を世に知らしめた出世作です。デイヴ・グルーシン、ハーヴィー・メイソン、若き日のポーカロ兄弟にデヴィッド・フォスターまで、LAスタジオ・シーンのオールスターが曲ごとに入れ替わり登場し、ジャズの演奏力とポップスの洗練が同居する「LAフュージョン」のお手本のようなサウンドを聴かせてくれます。

録音当時のリトナーは25歳前後。すでにLAで最も多忙なセッション・ギタリストの一人だった彼が、ソロ・アーティストとして本格的に離陸した瞬間を刻んだ一枚でもあります。リトナーの経歴やキャリア全体についてはリー・リトナーとは?(人物紹介記事)で詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。

アルバム基本情報

項目 内容
発売 1977年(Epicからは2作目、通算3作目のスタジオ・アルバム)
レーベル Epic Records
録音日 不詳(公式資料に具体的な記載なし)
録音場所 Kendun Recorders(バーバンク)、Sound Labs(ハリウッド)、United Western Recorders(ハリウッド)
プロデューサー スキップ・ドリンクウォーター(アソシエイト・プロデューサー:リー・リトナー、エグゼクティブ・プロデューサー:ジェリー・シェーンバウム)

固定バンドではなく、曲ごとに顔ぶれを組み替える総勢20名超のLAセッション流大編成で録音されています。

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どんなアルバム?

まずタイトルの由来から。「キャプテン・フィンガーズ」とは、リトナーの指の器用さ・超絶技巧を指すニックネームです。一説には、大量のギターを詰め込んだ巨大なケースを運んでいたスタッフが付けたあだ名ともいわれています。冒頭のタイトル曲は、この異名を音で体現するために書かれたとされる「名刺代わりの一曲」です。

リトナーは1973年、21歳でセルジオ・メンデスのバンドに抜擢され、以降はLAで多いときに週15〜20本ものセッションをこなす売れっ子に。生涯のセッション参加数は約3,000に及ぶともいわれ、後年にはピンク・フロイド『The Wall』へのクレジットなしでの参加でも知られています。ソロ・デビュー作『First Course』(1976年)に続くEpicからの第2弾となる本作では、当時最先端のLAジャズ・ファンク/クロスオーバー・サウンド(ジャズを土台にファンクやポップスの要素を融合したスタイル)に本格的に取り組んでいます。バーバンクとハリウッドの3つのスタジオを使い分け、曲ごとに最適なメンバーを集めて録音するスタイルです。

その顔ぶれがまた豪華です。ジェフ・ポーカロ、マイク・ポーカロ、デヴィッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、ビル・チャンプリンといった、この直後のTOTO結成からAOR全盛期へとつながっていく面々と、デイヴ・グルーシン、ハーヴィー・メイソン、アンソニー・ジャクソン、パトリース・ラッシェンらジャズ/フュージョン人脈が同居。さらに「ダウィリ・ゴンガ」なる謎の名前でクレジットされたエレクトリック・ピアノ奏者は、契約上の理由によるジョージ・デュークの変名(別名義)とされています。

本作はBillboard 200で最高178位、Jazz Albumsチャートで31位を記録。アルバム・タイトルはそのまま本人の愛称として定着し、翌1978年には続編的タイトルの『The Captain’s Journey』へとつながっていきます。

参加メンバー

曲ごとに編成が変わるため参加者は大人数ですが、ここでは各曲の中核を担う主なメンバーを紹介します。

  • リー・リトナー(ギター) … エレクトリックから12弦、クラシック・ギターまでを弾き分ける主役。360 Systems製のポリフォニック・ギターシンセサイザー(ギターの演奏でシンセの音を鳴らせる当時の最新機材)も大々的に使用しています。
  • デイヴ・グルーシン(キーボード) … 「Fly by Night」「Sun Song」の2曲を作曲し、アレンジ・指揮も担当する本作の右腕的存在。
  • ダウィリ・ゴンガ(エレクトリック・ピアノ) … 契約上の理由によるジョージ・デュークの変名とされる名義。
  • パトリース・ラッシェン(エレクトリック・ピアノ) … タイトル曲で豪華鍵盤陣の一角を担う奏者。
  • アンソニー・ジャクソン(ベース)/アルフォンソ・ジョンソン(ベース) … タイトル曲では2人同時参加という贅沢な起用。
  • ハーヴィー・メイソン(ドラムス) … 7曲中5曲でドラムを叩く、本作のリズムの要。
  • ジェフ・ポーカロ(ドラムス)/マイク・ポーカロ(ベース) … ジェフは翌年デビューするTOTOの結成メンバー、マイクも後に同バンドへ加わるポーカロ兄弟。
  • デヴィッド・フォスター(エレクトリック・ピアノ) … 後のAOR全盛期を担っていくLA人脈の一人。
  • アーニー・ワッツ(サックス) … ソプラノとテナーの両方で2曲に彩りを添える職人。
  • ビル・チャンプリン(ヴォーカル) … アルバム唯一のヴォーカル曲で歌声を聴かせるシンガー。

全曲解説

オリジナルLPに収録された全7曲を、曲順に沿って紹介します。

1. Captain Fingers(作曲:Lee Ritenour)

アルバム冒頭を飾る高速フュージョン。バンド一丸となった超絶ユニゾン(全員が同じフレーズを一斉に弾くこと)が圧巻で、リトナーのギターシンセ、グルーシン+ラッシェン+デューク(変名)という鍵盤群、アンソニー・ジャクソンとアルフォンソ・ジョンソンの2ベースという豪華布陣が火花を散らします。後年のライブでも定番の、リトナーの代名詞的ナンバーです。

2. Dolphin Dreams(作曲:Lee Ritenour)

一転して叙情的な浮遊感に包まれるナンバー。12弦ギターとアコースティック・ギターの多重録音に、ミシェル・コロンビエ編曲のストリングスが重なります。ライブでも頻繁に演奏されたとされる、ファン人気の高い一曲です。

3. Fly by Night(作曲:Dave Grusin)

グルーシン作のファンキーなミディアム・ナンバー。アーニー・ワッツのソプラノ・サックスに加え、クラヴィネットやミニムーグ(1970年代を象徴する鍵盤楽器)を重ねたグルーシンの多彩なキーボード・ワークが聴きどころです。

4. Margarita(作曲:Lee Ritenour)

リトナー作のラテン・フレーバー曲。アルフォンソ・ジョンソンのベースとハーヴィー・メイソンのドラムが生み出す軽快なグルーヴに乗って、リトナーのギターが伸びやかに歌います。

5. Isn’t She Lovely(可愛いアイシャ)(作曲:Stevie Wonder)

スティーヴィー・ワンダーの名曲カバーで、ビル・チャンプリンが歌うアルバム中唯一のヴォーカル曲。ジェフ・ポーカロ、マイク・ポーカロ、デヴィッド・フォスター、レイ・パーカーJr.という、ほとんど「TOTO前夜」といえる編成です。原曲から大きくアレンジを変え、リトナーのギターを前面に出した解釈が新鮮です。

6. Space Glide(作曲:Mitch Holder, Eddie Arkin)

本曲でリズム・ギターも弾いているミッチ・ホルダーと、エディ・アーキンの共作。ファンク色の強いスムース寄りのナンバーで、アーニー・ワッツのテナー・サックスがフィーチャーされます。

7. Sun Song(作曲:Dave Grusin)

グルーシン作のアコースティックなクローザー。リトナーのクラシック(ガット)ギターにチェロのソロが絡む内省的なバラードで、エレクトリック中心の本編を静かな夕暮れのように締めくくります。

聴きどころ・なぜ名盤なのか

興味深いのは、評価に大きな「ギャップ」があることです。AllMusicのレーティングは5点満点中2つ星と意外なほど低い一方、日本での評価は高く、本作は「リトナーの出世作」として、その後量産されるLAフュージョン・サウンドの「雛型のひとつ」になったと評されることも少なくありません。後に量産される「型」をいち早く完成させたがゆえに、現在の耳には「よくあるサウンド」に聴こえかねない——元祖ならではの宿命を背負った一枚なのです。

音楽的な聴きどころは、リトナーのギターの多面性にあります。タイトル曲の火を噴くようなユニゾン、「Dolphin Dreams」の多重録音が織りなす音の絵画、「Sun Song」のガット・ギターの静謐——1枚の中でこれだけ表情を変えられるギタリストは多くありません。ギターシンセサイザーを大々的に使った早期の例としても重要で、後年ローランド製ギターシンセを積極活用するリトナーの原点がここにあります。

そして歴史的ドキュメントとしての価値です。ポーカロ兄弟、フォスター、グレイドン、チャンプリンという人脈は直後のTOTO結成〜AOR全盛期に直結しており、本作は「フュージョンとAORの交差点」を記録したアルバムとしても語り継がれています。1977年のLAの空気がそのまま封じ込められているのです。

こんな人におすすめ

  • フュージョン入門者 … メロディーが明快でグルーヴも心地よく、「LAフュージョンとは何か」を体感できる最初の1枚に最適です。
  • TOTOやAORが好きな人 … ポーカロ兄弟、フォスター、グレイドン、チャンプリンが揃った「TOTO前夜」の演奏が聴けます。
  • ギターの音作りに興味がある人 … ギターシンセから12弦、ガット・ギターまで、70年代最先端トーンの見本市です。
  • スタジオ・ミュージシャンの職人芸を味わいたい人 … 曲ごとに布陣を組み替えるLAセッションの妙を、クレジット片手に楽しめます。

まとめ

『Captain Fingers』は、裏方の名手だったリー・リトナーが、自らのニックネームを掲げてソロ・アーティストとして立ち上がった記念碑的な一枚です。その後のリトナーはフォープレイ結成へと進み、コンテンポラリー・ジャズギターの最重要人物への道を歩んでいきます。

海外レビューの点数だけを見て素通りしてしまうには、あまりにもったいないアルバムです。まずはタイトル曲の圧倒的なユニゾンに驚き、「Dolphin Dreams」の浮遊感に浸り、「Sun Song」の余韻で聴き終えてみてください。1977年のロサンゼルスで最も忙しかった指先が、初めて自分のために鳴らした音——それが『Captain Fingers』です。

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